新書「映画を早送りで観る人たち」書評

話題の書を読んでみました。本書は映像作品のみならず、エンターテイメントに関わる人必読の本だと思います。

この本がどんな本かというと、映画を早送りで観る習慣のある人達に違和感を覚えた筆者が様々な取材や調査によって、早送りをしてまで映画を見たい理由を考察する内容となっています。

私がこの本をおすすめする理由として、映画を早送り視聴すること自体の是非はともかく、現在(特に若年層を中心に)エンターテイメントがどのように享受されているのかの実態をリアルに把握できることです。

この本の要約は様々な方が書いていると思いますので、マジシャンとしての視点で気になった論点を挙げてみます。

1.セリフのないシーンは早送り

映画を早送りで観る人は、つまらないシーン、重要でないシーンを飛ばします。そして飛ばされてしまうシーンの代表格はセリフのないシーンだそうです。セリフのないシーンは物語の進行上重要でないと考えられます(実際は重要な意味をもっていることも多々あります)。早送りが習慣化している人にとってはセリフのないシーンが苦痛にすらなりえます。

マジックに置き換えたとき、セリフのないマジックは観客の集中力が落ち、しっかり見てもらえない可能性が出てきます。今後のマジックはより一層セリフが重要になり、見るだけで理解させるスライハンドは少し苦しくなるかもしれません(もちろん、時代に迎合するだけが芸ではありませんので、スライハンドを演じるべきでないとまでは言いません)。

2.わかりやすさと奥深さ

早送りしても内容がわかるくらいのわかりすいエンターテイメントに慣れてしまうと、わかりにくさ、難解さは悪になります。ただし、わかりやすいだけでは面白い作品ができません。誰にでもわかりやすいことと、人によってはより深く理解できる奥深さを両立させるべきだといいます。

3.テンポの速さ

早送り映像に慣れた人にとっては通常の人の話す速度が遅く感じられます。また、話の展開なども、全てが速いことに慣れています。したがってありとあらゆるエンターテイメントは今後より一層テンポの速さが求められる可能性が高くなります。

もちろん早送り文化の中心は20代など若い世代が中心ですから、年配の方にとっては速すぎるテンポはついていけなくなってしまいますので、客層によって考える必要は出てきます。

4.心を揺さぶられたくない

これは結構衝撃的な内容で、エンターテイメントを根底から否定するようにも見えます。詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、例えば

  • ハッピーエンド以外見たくない
  • (恋愛物で)主人公が失恋するのを見たくない
  • (ホラー等で)怖いシーンを見たくない
  • (ミステリー等で)予想外の人が殺されたり、予想外の展開になってほしくない
  • (スポーツ観戦なら)自分の応援するチームや選手が負けるところを見たくない

などなどです。

つまりスリルも意外性も要らないのです。それで面白いのかといえば、十分面白いし、むしろその方が快適に楽しめるそうです。

おわりに

私が色々と説明するよりもこの本を読んだ方が早いと思いますが、このような感じで(映画を早送りで観たことのない私のような人にとっては)目から鱗の現代的なエンターテイメントの楽しみ方が紹介されます。

本書を読んだ上で、現代的な感覚を取り入れようとするのも良いですし、時代に真っ向から逆らうのも格好良いと思います。いずれにせよ、現代のエンターティナー必読の書ではないかと思います。

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