二重魔法にご注意を

マジックのセリフや演出についての話です。「二重魔法」とは私ダーク和秋の造語ですが、便宜上この言葉を使って説明してみます。

魔法を示す

マジックを演じたとき、当然なんらかの不思議な現象が起きますが、その現象の理由、つまり魔法を示してあげることは、マジックをわかりやすく演じる上で重要です。演目やマジシャンの芸風によって魔法の示し方はそれぞれで、言葉で説明したり、指を鳴らす、息を吹きかけるなどのジェスチャーを用いることもあります。Mr.マリックさんの「ハンドパワー」などもそのひとつです。

また、マジックによってはあえて魔法を示さないで、いつの間にか現象が起きることで効果が上がる場合もあります。しかし、基本的には魔法を示した方が見ている人がついてきやすく、ましてや単に魔法を示すのを忘れてしまう場合もあり、それは損です。

さて、それならとにかく魔法やおまじないをかけまくればよいのか、というとそんなことはなく、万が一、二重に魔法をかけてしまうと一気にどんなマジックなのかわかりにくくなり、効果が減じます。これをこの記事内では「二重魔法」と呼ぶことにします。

それでは二重魔法の具体例を挙げてみましょう。

二重魔法の具体例

マジシャンは一組のトランプから裏向きで1枚抜き取り、「これは予言のカードです」と言ってテーブルの上に伏せて置いておきます。それから残りのカードの中から観客に1枚自由に取ってもらいます。そのカードをめくるとハートの2でした。次にマジシャンは予言として置いてあったカードの上で「パチン」と1回指を鳴らし、予言のカードめくるとダイヤの2です。見事にカードの色と数字が一致しました!

いかがだったでしょうか?あきらかに一点おかしい部分がありますね。そう、マジシャンは指を鳴らす必要がないのです。なぜなら、このマジックは「予言」のマジックであり、「予言」自体が魔法ですから、予言のカードをテーブルに置いた時点で魔法は終わっているはずなのです。観客が選んだカードと予言のカードが一致しているかどうかを示す段階においては、単なる確認であり、いわば「答え合わせ」です。この場合、マジシャンは、十分な間をとってゆっくりと劇的に予言のカードをめくるだけでよく、決してここで魔法をかけてはいけません。「予言」と「指パッチン」の二重魔法になってしまいます。

この記事を読んでくださっている方の中には、「そんなことは当たり前だろう。そんな間違いをする人がいるはずがない」と思う方もいるでしょう。実際、プロマジシャンや、ハイレベルなアマチュアでこの間違いをする人は皆無なのですが、初心者や中級者くらいの方だと、本番での緊張や、他のマジックとの混同から、うっかりすることは非常によくあります。

逆に、「なるほど、これは確かに間違えそうだ」と思った方は、鋭いです。人間は本当にいい加減なものなので、意識しなければ簡単にこのような間違いを犯します。

もうひとつ、さらにシンプルな例を挙げてみましょう。

「これは魔法のロープです。私がおまじないをかけると棒のように固まってしまいます」

有名なスティフ・ロープというマジックですが、このセリフだと、ロープ自体に魔力があるのか、マジシャンに魔力があるのか、よくわからなくなってしまいます。例えばロープ自体は普通のロープということにして、あくまでマジシャンがおまじないをかけるという設定にした方がわかりやすいですね。あるいは、少し凝ったセリフにすると、「このロープは魔法のロープで、私の命令通りに動きます。固まれ!」といった感じの設定もおもしろそうですね。どちらも魔法が二重になっていません。

まとめ

一言でいえば、「セリフをよく練りましょう」ということですが、セリフを練るためにはまずは自分のマジックをよく理解し、設定を作ってあげることが大切です。設定はごくシンプルなものでかまいません。適切な魔法を示すことができれば、観る人の反応がぐっと良くなると思います。

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