今回はある意味、究極のテーマ「マジックの向き・不向き」について考えてみたいと思います。これは私も長年考えてきたことであり、マジックをしている、これから始めようとしている人はもちろん、その他のあらゆるジャンルの「向き・不向き」にも通じる内容だと思います。
向き・不向きはある!でもそれは才能とかではなく…
マジックはやはりとても難しいです。だからなかなか上達せず、つい「自分は手先が不器用だから」「しゃべるのが下手だから」「記憶力が悪いから」と考えてしまう方もいます。
でも、よく考えてみると、簡単にできて、どんどん上達するものなんて、この世にあるのでしょうか?もしあったとしても、そんなジャンルは誰でもすぐに極めることができるので、結果的にすぐに廃れてしまうはずです。
スポーツでも芸術でも、長年多くの人に愛されているジャンルは、とても奥が深く、簡単に上手くはなれません。マジックもピアノもダンスも野球もサッカーも、絵画も書道も将棋も、なんだって難しいです。
どんなジャンルにも向き・不向きはありますが、私はあまり個人の才能のことなどは考えなくて良いと思っています。それではどんな人にマジックが向いているかというと…。
あなた自身にとってプラスになっているかどうか
私がマジックが向いているなと思う人は、マジックをすることで、その人自身のプラスになっている人です。それは内的な面と外的な面があります。
まず、内的には、その人自身の楽しみや充実感につながっているかどうかです。マジックを練習したり、どこかで披露することで精神的に充実感を感じることができれば、それだけでマジックに向いている人だと私は思います。
また、外的には、他人から見て、普段のあなたより、マジックをしているときのあなたがより一層輝いて見えるか、より良い印象になっているかどうかです。
スポーツ選手は、そのスポーツをしているときが一番格好良いですし、ダンサーも踊っているときが一番格好よく見えるものです。マジックも、マジックをしているときにより良く見えるのであれば、向いているといえるのではないかと思います。
これは決して、「より難しいマジックができるから、マジックに向いている」ということではなく、「マジックによってその人が輝く」という点が大切です。
マジックに向いていない人とは?
意外に思われるかもしれませんが、私が思うマジックに向いていない人とは、既に魅力に満ち溢れている人です。マジックをやってできないことはないかもしれませんが、やったところであまりプラスにならず、そもそもやる必要がありません。
わざわざ具体例を挙げる必要はないかもしれませんが、お笑い芸人の明石家さんまさんや俳優の黒木瞳さんを想像してみてください。
さんまさんの最大の魅力はしゃべりの面白さであるにもかかわらず、マジックはかなり脳のリソースを消費します。するとマジックにリソースを奪われて、しゃべりの切れがなくなってしまうことが考えられるのです。
また、例えば黒木さんが何らかのパーティーに出席したとして、マジックをするべきでしょうか?むしろ、ただ佇んでいた方がミステリアスで魅力的に見えるかもしれません。
本来なら、さんまさんや黒木さんが趣味でマジックを始めることをマジシャンなら歓迎すべきなのかもしれませんが、冷静に考えるとやはり必要ないように思えるのです。
イメージしやすいように有名人の方を挙げましたが、実際に社会的地位の高い方でマジックを趣味にしている方もいます。しかしこれは普通とちょっと違う効果を狙ったものであると私は見ています。
例えば政治家や経営者、医師、弁護士、大学教授などの職業で、マジックを趣味にしている方がいます。これはむしろ、普段「先生」と呼ばれて、あまりに尊敬されすぎてしまい、マジックでバランスを取ろうとしている気がするのです。
つまり、「あんなに偉い先生なのにマジックをするなんて、意外とお茶目で可愛いところもあるのだな」と、親しみをもってもらえるのです。例外的ではありますが、これもマジックによるプラスの効果といえると思います。
マジックをしている方、これからマジックを始めようとしている方は、まずは「才能」や「向き・不向き」を気にせず、マジックそのものの習得の過程や、それにともなう人間関係など、プロセスを楽しむことを大切にしていただけたらと思います