長所を伸ばすか、弱点を無くすか

仕事、勉強、芸術、スポーツなど、ありとあらゆる分野において、「長所を伸ばすか、弱点を無くすか」という問題があると思います。もちろん、最終結論として「長所を伸ばしつつ、弱点を無くしていく」というのがベストであることは間違いないのですが、優先すべきはどちらなのか、マジックの場合についても考えてみました。

弱点を改善する方が楽

私なら、弱点を改善する方が楽だと考えます。

なぜなら、弱点は今現在のレベルが低いために伸びしろが大きく、改善した場合の効果も大きいからです。

一方、長所はすでにレベルが高く、これをさらに上に押し上げるのは多大な努力が必要だからです。

自分の得意分野を伸ばしていく、というのは科学者や研究者なら有利なのかもしれませんが、人に見せることを前提とするマジックは常に総合点で評価されます。

マジックはあらゆる点で観賞に堪えうるレベルにすることが最優先だと思います。といっても、私はこれらにとても高いハードルを課そうとしているわけではありません。

多くのプロマジシャンやアマチュアマジシャン、そして自分自身の経験を鑑みて、本当に最低限のレベルをクリアすることが必要だと考えているのです。

クリアすべき最低限のレベルを、「不思議さ」「テクニック」「演出」という三要素で考えてみます。

不思議さ

まず、そのマジックは何が起きるマジックなのか、言葉で口にするか、紙に書きだすかして、自分で理解することが大切です。

実は種がわかる、わからない以前に、何をしたいマジックだったのかわからない、というパターンは非常に多いのです。そうなると当然、不思議ではなかったという結果になってしまいます。

その上で、種が見えない、わからない、というレベルを目指すことになりますが、実はこれはかなり難しいです。はっきり言って、「種が見えない、種がわからない」マジシャンというのは、それだけでも尊敬に値すると私は思っています。

それくらいに完璧に不思議に演じるのは神経を使うし、大変なことなのです。しかし、多くの観客はそう思ってはいません。マジックは「種が見えない、種がばれないのは最低ライン」と思っているのです。

ですからここは、マジシャンが観客に歩み寄るしかありません。本当に大変ですが、種が見えない、ばれないように努力するしかないのです。

テクニック

マジックを演じる上で、超絶技巧をマスターする必要はありません。もちろん、超絶技巧を軽々とこなせるのであれば使っても良いですが、マジックにおけるテクニックで大切なことはもっと基本的なことです。

まず、物を落としすぎないことです。道具を落としたからといって、種が見えたわけでなければ、お客様もそれほど気にされないでしょう。しかし、度々物を落としていると、「このマジシャンは下手だ」という印象を与えてしまいます。

物を落とさないことを心がけるようになったら、次は物をしっかり見せる(不用意に隠さない)ということが大切です。基本的にマジックの道具はお客様の視界から消えないように持つことが大切です。

しかし、これはかなり意識して練習しないとできません。少し油断しただけで、道具はあなたの体の陰に隠れてしまったり、テーブルの下に隠れてしまったりするのです。

道具がお客様の視界から消えてしまうと、途端に不思議ではなくなり、それどころか何が起きたのかすらわからなくなります。

マジックに必須のテクニックとは、かくもシンプルで当たり前で、でも難しいことなのです。

演出

演出という言葉の範囲は少し曖昧ですが、私がプロ・アマ含む全マジシャンにぜひクリアしていただきたいポイントは、「衣装」「セリフ」「音楽」です。

衣装は最高級のものを着ましょう、とまでは言えません。あくまで、本当にだらしない格好をするのはやめようということです。マジシャンはたとえアマチュアであったとしても、お客様をもてなす立場であることには変わりありません。ですから、部屋着のように見えたり、休日のように見えたりする格好は、サービス精神に乏しいと思われてしまいます。

よく「自分はしゃべりが下手だ」という方がいます。しかし、私は下手でも全く良いと思います。むしろ危険なのは、「自分はしゃべりが得意だ」という方です。しゃべりが得意な分、あまり準備をしないで、適当に思い付きでしゃべってしまいがちです。そうすると結果的に言わない方が良いことを言ってしまったり、全体が冗長になってしまいがちです。

しゃべりが苦手だという方も、本当はしゃべりが苦手なのではなく、何をしゃべるかを事前に考えて準備していないだけ、ということが多いと感じます。

結局のところ、しゃべりが得意な方も苦手な方も、事前にしっかり考えて準備するということが大切です。そうすることで、口ごもることなく、余計なことを口走ることなく、進められるのです。

しゃべらずに音楽を流して演じる場合もあります。そのような場合も、何も考えずに「オリーブの首飾り」を使ったり、そのときの流行曲を使ったりするのではなく、一度しっかり時間を取って選んでほしいと思います。

プロマジシャンの中には、自分のマジックのためだけに作曲された音楽を使う方もいます。もちろんそれはそれで素晴らしいのですが、いきなり作曲してもらうのはコストパフォーマンスが悪いです。なぜなら、マジックの流れを改変したり、雰囲気を変えたくなるのは良くあることなので、その都度その音楽が使えなくなってしまうからです。

そこまでの費用をかけなくても、一度ゆっくりと曲を選ぶだけでも大きく違います。セリフと音楽に関しては、原稿書きが苦でないなら台本作りを、音楽を聴くのが好きなら曲選びに力を入れると良いと思います。

まとめ

不思議さ

  • 何が起きるマジックか
  • 種が見えない

テクニック

  • 物を落とさない
  • 道具を観客の視界から消さない

演出

  • お客様を迎える衣装
  • セリフは台本を書く
  • 音楽は自分で選ぶ

これだけでも結構大変ですが、逆にいえばこれらを最低限クリアすれば、ぜひ思う存分長所を伸ばしていってほしいと思います。

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