マジックのテクニックは日々進化を続け、より高度に開発され続けています。それは一見良いことのようですが、あまりに行き過ぎるとインフレ状態となり、かえってマジックの効果を損なうのではないかと思います。
実際、昭和の時代なら名人のテクニックと思われていたようなテクニックが、今では基本テクニックに成り下がっていたりします。
では、昭和のマジシャンよりも現代のマジシャンの方が圧倒的にレベルが高いかというと、確かに現代のマジシャンの中には練習熱心な方もいるので、レベルは高いとは思いますが、それでも限界はあると思います。
というのも、人間は必ず多かれ少なかれ緊張しますし、暑ければ汗をかき、寒ければ指が動かなくなります。涼しく快適な練習部屋で、精神的な緊張も一切ない理想の環境ならできるマジックも、悪環境、悪コンディションでは覚束なくなるのです。
また、クロースアップやパーラーなど、観客の影響が大きい状況ではなおのこと余裕をもって演じられる演目でなくてはいけません。
テクニックがインフレした結果、本番での出来が不安定になっては元も子もありません。
基本的にプロマジシャンは自分の力量をしっかり見極めていて、これくらいなら環境に耐えうるという演目を演じています。
先日開催された春のキッズフェスタですが、同日に出演された長野のプロマジシャン、ブラックサタンさんのパフォーマンスを拝見しました。
サタンさんはとても謙虚な方で、出演前も「自分はマジックがあまりできない、上手くない」というようなことをおっしゃっていましたが、少なくとも私から見てとても上手だと思いましたし、おそらくお客様の中でも下手だと思った方はいなかったのではないでしょうか?
サタンさんのマジックは、スティフハンカチーフ、3本ロープ、メタルベンディングなど、どの演目も角度に強く、プロらしい安定感がありました。また、現象的にもビジュアルで、今回のようにガヤガヤとした環境かつマイクなしで声が届きにくい状況でも、効果を減じにくかったと思います。
また、サタンさんは非常に勉強熱心でもあり、私がワークショップで講習したカードマジックを覚え、「私も今度演じて良いですか?」と聞いてくださいました。私の講習したマジックは一応私のオリジナルではありますが、子供向けということもあり、とても単純で普通のマジシャンなら演じてみようという気にすらならないものです。
しかし、いくら方法が単純でも、種がわからなければ人はとても驚いてくれるもので、やり方の難易度は関係ないのです。今後本当に演じてくださるかはわかりませんが、少なくとも私のマジックに共感してくださったことを嬉しく思います。
キッズフェスタでは私とサタンさんの他、ドルフィンさんと横田さんがスタッフとして参加されました。ご来場くださったお客様、オリンピックセンターのスタッフの皆様、ありがとうございました。