マジックの初心者は失敗したり、種がバレたりすることを最も恐れますが、長年マジックをしていると、それらはある程度リカバリーできるものだと気付きます。
むしろマジシャンが本当に恐れなくてはいけないのはもっと大きな意味での失敗です。今回は私が忘れたくても忘れられない失敗を3つご紹介したいと思います。
失敗1 噴水を隔てたショー
これは私の中でもとりわけ出来の悪かったショーです。そのときは屋外の大きなステージと客席の間に噴水がありました。もちろんショーの間は噴水は止まっているのですが、それでも客席との間に大きな池がある状態には変わりなく、観客と接するためには、かなり大回りをしなくてはならず、実質的には不可能でした。
トークを中心としたマジックでは、客席との断絶は致命的です。客上げができないのはもちろんのこと、客席まで降りて行って関わることもできませんし、お客様はマイクを持っていないので、一人指名して何か言ってもらったりすることもできません。
とすると、マジシャンが一人でしゃべり続け、見せ続けるタイプのマジックということになりますが、実はこれがかなり難しいです。例えば、リンキングリングなどもお客様に調べてもらったり、一緒につなぎ外しをしたりといったことができないため、効果が大きく減じるのです。
特定のマジックを失敗したというより、ショー全体が失敗でした。今でも同じ状況でマジックをするとなったらかなり苦戦するでしょう。おそらく最善は、どうにかして環境を変えることだと思います。例えば、演技の場所を変えて噴水の前でショーをするなどです。
失敗2 MCとの競演!?
最近はトークマジックを演じることが多いですが、以前は部分的に音楽のみでマジックをすることもありました。
これは本当に私の実力不足、打ち合わせ不足なのですが、私の演技中にMCの方がずっとしゃべってマジックの実況をしてしまったことがありました。
もちろんプロのMCならありえないことですが、おそらくイベントのスタッフの方で、しゃべらないマジックというものに馴染みがなく、そうなってしまったのだと思います。何より、私の演技の未熟さがそうさせてしまったのだと思います。
これはかなりのレアケースで、後にも先にもこの1回だけです。ただし、よくよく冷静に考えてみると、テレビではこのような演出が頻繁にあるように思います。例えば、普段マジシャンがBGMのみで演じているショーに対し、それをテレビで放送するときは「間が持たない」と考えるのか、「この後一体何が起きるのでしょうか!?」などと、ひっきりなしにナレーションが入ったりします。
いずれにしても、マジシャンとしては実況なしを前提として組み立てているので、実況によってペース、間、タイミングが狂ってしまい、思うようにいきませんでした。
失敗3 3名の外国人
バーでクロースアップマジックをしていたとき、3人組の外国人のお客様が来店しました。男性2名、女性1名です。
ただでさえ英語でマジックをするのは緊張するのですが、その日はよりによって少し慣れない演目を演じていました。その結果、普通にマジックそのものを失敗して、種が見えてしまいました。
女性客がすぐに指摘しましたので、「仕方ない、普通に謝って次のマジックに移ろう」と思ったら、次の瞬間、なぜか2人の男性客が「種なんか見えていないよ」などと言って私をかばい始めました。
私は相当焦って、もし日本人だったらすぐに「今のは私のミスです。女性のお客様の言う通りです」と謝るところだったのですが、それを英語で上手く表現できずにいたところ、お客様同士で喧嘩のような変な雰囲気になってしまいました。
結局その空気を挽回することができずにマジックを終えてしまい、後悔が残りました。私の英語力の問題もありますが、マジックをやったことのある方ならご存じの通り、マジックは母国語で演じても十分難しいです。ですから外国語で演じるときは本当に余裕をもった構成にしなくてはいけません。
おわりに
今回ご紹介したのは私にとって比較的古い失敗ですが、現在も当然ながらいろいろな意味で失敗することはあります。そして私がマジシャンであり続ける限り、今後も失敗することはあるでしょう。そしてそれは本当に辛く、苦しいことです。
皆さんもマジックに限らず、人生で様々な失敗をすることがあると思います。きっと誰も失敗しなくなるということはないのでしょう。でもそれを乗り越えていきたい、乗り越えてほしいと思っています。