ダンシングケーンのレトリック

ダンシングケーンは有名な作品でありながらプロでは演じる人が少ないマジックです。その理由を紐解いていくと意外な事実が浮かび上がります。

「ケーン」とは杖のことであり、「ダンシングケーン」は杖がマジシャンの意のままに踊りだすというマジックです。ダンシングケーンを見た人のほとんどは糸を使っているのではないかと疑いますが、実際に糸を使っています。しかし、糸の付け方、操り方、見せ方に技術があり、マジックとして成立しています。

アマチュアマジッククラブの発表会などではよく演じられていますが、プロマジシャンはあまり演じません。その理由は単純で、糸が見えてしまうことがあるからです。

発表会では、通常はリハーサルがあり、そのときに照明を調整できます。そのために問題なくダンシングケーンを演じられるのですが、プロマジシャンがイベントなどに出演するときは、そもそも照明の調整が不可能だったりするので、安定的に演じられないのです。

本題はここからで、よく、ステージマジックでは道具が大きくないと見にくいという固定観念があります。しかし、ダンシングケーンの糸は当然、太さ1mm以下です。ところが照明を調整しないと、かなり離れていても糸が見えてしまうのです。

これは皮肉にもダンシングケーンの性質も関係しています。つまり多くの観客は種を見破りたい、少なくとも不思議な現象の原因を知りたいと思っているため、この場合の種にあたる糸を一生懸命見てしまうのです。

人気のスポーツの試合やミュージシャンのコンサートに行くと、後ろの方の席ではものすごく小さくしか見えないにもかかわらず、それでも見たいという人はたくさんいます。

結局のところ、人は興味のないものは見ない、見たいものは目を凝らしてでも見たいのです。

また、見えていないのに見えてしまう場合もあります。例えばケーンの扱い方が悪くて、糸が見えていないにもかかわらず、糸の存在を感じさせ、見えた気になってしまう場合です。

これらの「見せたくないものが見えてしまう」という問題は、「見せたいものを見せる」ことにも応用できます。

例えばマジックで見せたいものに関しては、それが重要で、価値がある、魅力があると思わせることができれば、少々小さくても見えるということです。

また、物理的に見えなかったとしても、その存在を感じさせることができれば、見せることができるということです。特にこの場合は視力に関係なく見せたいものを表現できるのが長所です。

これをどうやって自分のマジックに応用するか、そこが腕の見せ所です。

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