私自身がマニピュレーションの手順を組むときに心掛けていることで、なおかつ私自身もつい油断すると忘れがちなことをご紹介します。ステージマジックをされる方の参考になれば幸いです。
1.手順そのものは大切ではない
手順構成に悩み始めると泥沼にはまってしまいがちですが、忘れてはいけないのが手順そのものは最優先事項ではないということです。
もちろん、良い手順、悪い手順というのは存在しますが、100点満点の究極の手順を作ろうとはしないことが大切です。どちらかといえば、まずまず合格点が取れるような手順を目指すのが良いと思います。
というのも、究極の手順を作ろうとするあまり、盛り込みすぎたり、無理が生じたりしがちです。それよりも、手順構成で大切なのは、明らかにごたつくところや、失敗する可能性の高い部分をなくすことです。そして手順構成以上に大切なのは、ひとつひとつの技がしっかり決まること、そしてひとつひとつの現象がしっかり起きることです。
マニピュレーションにおける手順構成は演じるたびにマイナーチェンジ(ときには大幅な変更)をして調整するのはよくあることであり、醍醐味でもあります。究極の固定手順よりも、まずは暫定的で柔軟な手順を目指すのが良いのではないかと思います。
2.本当に良い部分は1分くらい
マニピュレーションのひとつの演目における、一番面白くて盛り上がる、素晴らしい部分というのはたいてい数十秒から1分くらいです。これは残念ながら伸ばすことが難しいです。
というのも、観る人はすぐに刺激に慣れてしまい、新しい刺激が欲しくなるからです。また、マジックとしても、同じ原理であまり長時間演技するのは見破られる危険が高まります。
ということはその1分の素晴らしいイフェクトを大切にして、終盤にもってくる構成にしなくてはいけません。映画でいう見せ場のような感じです。例えばいかに素晴らしい殺陣(たて)であっても、あまり長いと飽きてきますし、ダレてしまいます。
かといって、手順そのものを1分にしないといけないわけではありません。1分では逆に短すぎて、その演目に入り込む前に終わってしまう可能性があります。
私としては、1~2分間で道具の紹介を兼ねて、軽いジャブを放ちつつサブパートを見せ、最後の1分でメインパートを見せるような構成が良いのではないかと思います。
3.クライマックスにこだわりすぎてはいけない
マニピュレーションにおけるクライマックスには、観客の度肝を抜くような意外性や、今までの演技が全てどうでもよくなるくらい強い現象は要りません。
例えば、四つ玉のラストに、直径1メートルくらいの大玉が出現したら、それはそれですごいですが、あまりに突飛であり、むしろ今までの演技が台無しになります。マニピュレーションは流れや過程の中での不思議さや美しさが大切であるため、それを最後にぶち壊すようなクライマックスは必要ないのです(もし仮に大玉の出現が可能であったとしても、それは単独のイリュージョンとして演じた方が良いと思います)。
マニピュレーションのクライマックスは、今までの流れを崩さずに、演技の終了を告げる役割が大きいかと思います。逆にいえば、「終わった感じ」が表現できていれば、追加のクライマックスは必要ない場合もあります。
おわりに
以上、3つほど挙げてみましたが、「なるほど」と思って参考にしていただいてもかまいませんし、「いや、それは間違っている!」という気持ちで、反する手順を作っていただいてもかまいません。マジックは多様である方がおもしろいと私は思っています。