構成と演出~つなげるべきか、切るべきか~

先日、講座の前後のすき間時間に、受講者の方から相談を受けてアドバイスをしました。そのときは時間もなく、最低限の助言しかできなかったのですが、よくよく考えてみるとかなり深い話になるので、記事にしてみました。

その相談というのは、「今度大人数のパーティーで15分マジックをやるので、アドバイスがほしい」というものでした。この種の悩みはよくあるものですから、皆さんのご参考にもなると思います。

今回は既に演目がおおよそ決まっていて、紙にプログラムが書き出してありました。ロープマジックをはじめとして、トークマジック中心に構成されており、個々のマジックについては技術的なアドバイスをさせていただきましたが、少し迷ったのが最後の演目です。以下に書き出してみますが、皆さんならどうお感じになるでしょうか?

①チェンジングバッグ(袋に取っ手が付いたような形状のマジック用具)が空なのを見せてから、バッグから赤・黄・青の3枚のシルクを取り出す。

②そのシルクを使って色変わりレコード(シルクセレナーデ)を演じる。

③色変わりを終えた3枚のレコードからそれぞれ3枚のシルクを抜き取り、それらを再びチェンジングバッグに入れると、カラフルなシルクストリーマー(細長いシルクのこと)に変わり、さらに手製のメッセージシルク(祝○○周年といった内容が書かれている)が出てくる。

いかがでしょうか?大半の方は良い印象を持ったのではないかと思います。私自身も、手製でメッセージシルクを作った点が素晴らしいと思いました。このような苦労はしっかりと伝わり、喜ばれるものです。しかし何かが惜しいとも感じました。整理すると以下の3点であることがわかりました。

  • 最初に空のバッグから3枚のシルクを取り出す現象は本当に必要か?
  • 3枚のレコードに通ったシルクを1枚ずつ抜き取っていくのは、少しまどろっこしくはないか?(実はタネの都合上も、あまり色変わりを終えたレコードには触れたくない)
  • シルクストリーマーは、3枚のシルクから変化したという設定で演じるよりは、単に出現したという現象で演じた方が良いのではないか?

これらの問題の根底にあるのは、手順を「つなげるべきか」「切るべきか」です。上の演じ方だと明らかにつなげて演じたいという意図が見えます。この手順はつなげて演じるべきなのでしょうか?私の答えはNOです。

まず第一にシルクセレナーデというマジックの性質です。シルクセレナーデは本当に素晴らしいマジックで、完成されています。これひとつでダイナマイト級のマジックなのです。しいて欠点を挙げるとすれば、レコードというアイテム自体が古いこと、そしてあまりに安い値段で誰にでも簡単に手に入ってしまうことです(笑)。

シルクセレナーデはそのあまりの完成度の高さゆえ、これ以上いじることができません。何を加えても蛇足になってしまうのです。ですから、3枚のシルクを空のバッグから取り出す行程は必要ありませんし、手順の最後にケースの中を改めた後は何もしてはいけない、ましてレコードに触れてはいけないのです。

また、シルクからストリーマーへの変化はどうでしょうか?変化現象というのはギャップが大きすぎてはいけません。つまり、「白いハンカチが赤くなった」とか「2枚のばらばらのハンカチが結ばれて出てきた」などは現象として無理がないのですが、「小さな3色3枚のシルクがレインボーのストリーマー+メッセージ旗になった」というのはちょっと欲ばりすぎです。なぜなら色も形も数も量も異なるからです。ここは素直に出現現象で良いのではないでしょうか?

さて、以上を勘案して、もし私なら以下のような構成と演出で演じたいと思います。

①通常通りシルクセレナーデを演じて満場の拍手をもらう。

②チェンジングバッグを持って次のように言う。「いよいよこれが最後のマジックです。最後は皆さんの力をお借りしてマジックをやってみたいと思います。皆さん、手を出して、○○の会○○周年おめでとうという気持ちをこめて手を握り、こちらの袋に向かって投げ入れてください。もちろん投げるのは気持ちだけで実際のモノは投げないでください(笑)。一応まだ袋は空なのを見せておきましょう。皆さんもう握りましたか?それでは1、2の、3で投げてください。1、2の、3!皆さんの気持ちが十分に集まりました!」あとはバッグから景気よくストリーマーとメッセージを出して拍手喝采!

いかがでしょうか?私の意図は2つのマジックを別々に演じることで、役割を分担させることです。すなわち、シルクセレナーデではマジックそのものの不思議さ、面白さを表現し、チェンジングバッグの手順ではあくまで演者の気持ち、メッセージを届けるための演目とするのです。

ただし、これは決してお手本ではなく、私ならこうしたいという例であり、細かい演出やセリフ回しはその人のキャラクターによって変わってくると思います。私がこの記事で伝えたいことは、「マジックのコンセプトを大事にすること」、そして「無理に2つのマジックをつなげようとしないこと」です。

特に少しマジックに詳しくなってくると「なんでもかんでもひとつにつなげたい病」が発症します(笑)。2つ以上のマジックをつなげることで相乗効果が生まれ、より良いマジックになるのならつなげてもかまいませんが、そのような場合は決して多くはありません。

マジックをつなげたからといってストーリーになっているわけではありません。白いハンカチが赤に変わり、そこからトランプが出てきたのでカード当てをやり、そのトランプをバッグに入れるとロープに変わってロープ切りをやる。これの一体何がストーリーなのでしょう?どこにメッセージがあり、どんなコンセプトなのでしょう?

そもそも私はストーリー自体、マジックに(あっても良いが)必須ではないと考えているのですが、それはまたの機会とし、ぜひ皆さんが手順構成をするときにはなんでもかんでもつなげて演じるのではなく、「つなげるべきか」「切るべきか」考えていただきたいと思います。

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