過冷却水

最近はすっかり涼しく、または寒くなってきましたがいかがお過ごしでしょうか?私は最近演劇の舞台の指導・監修をしつつ新しいマジックの考案もしています。教材や販売用ではなく、あくまで自分が演じるためのマジックです。

新しいマジックの考案は過冷却水に似ていると思いました。

過冷却水とは、0度以下であるにも関わらず、凍っていない水のことです。静かな環境で、ゆっくりと温度を下げることで、水を凍らせずに0度以下にすることができるのです。

過冷却水は何かきっかけがあればいつでも凍る状態になっています。例えば小さな振動を与えるとか、ちょっとした不純物を加えるとか、そのような小さな刺激によって瞬間的に凍結します。

新しいマジックを考案するときは自分の頭の中をこのような状態にする必要があるように感じるのです。

つまり、静かな環境で、ゆっくりと研究と練習に集中していく。しかしなかなか作品として結実しない。もう十分に研究して、練習したようでも、なぜか自分の作品にはならない。そのような状態に一度なるのです。

ところが、ほんのちょっとしたきっかけで解決し、突然作品が出来上がります。まるで過冷却水が一瞬で氷になるように。

しかし、そのきっかけが何であるかはわかりません。他のマジックと組み合わさることもあれば、台詞が解決することもあります。

大切なのはまず過冷却状態をつくること、十分に研究を深めることのような気がしています。言い換えると、なかなか成果が出なくとも研究を続けることなのかもしれません。

有名なニュートンのリンゴのエピソードがありますが、私が思うに、木からリンゴが落ちたの見たのはきっかけに過ぎず、それまでの十分な研究があってのことだと思います。

そもそもニュートンのリンゴは創作だという説もありますが、ニュートンに限らず、ちょっとしたきっかけでひらめきが生まれるのは、それまでの研究次第なのではないかと思います。

ただの水をいくら振ったり、たたいたりしても凍らないのと同様、ひらめくための準備ができていなければ、ひらめくことはできないのではないでしょうか?

あるピアニストが、「良い演奏をするためにはどうしたら良いか」と聞かれて、「散歩をしたり、美術館に行って絵を見ると良い」と答えたそうですが、当然ながら散歩をして、絵を見るだけではピアノは弾けるようにはなりません。まずは十分な練習をして、あとは少しのきっかけが必要なだけ、という状態にすることが大切なのではないでしょうか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です