小説「The Only 1」感想(ネタバレなし&あり)

※なぜかこの記事が購読者限定の設定になっていました。秘密の記事を書いたつもりはなったので、通常の設定に戻しておきました。

最近小説を1冊読み終えたので感想です。なんとこの小説は作者の稲村祐汰さん本人がネタバレありの感想を許可していますので、前半にネタバレなしの感想、後半にネタバレありの感想を書いてみようと思います。

リアル脱出ゲームノベル The Only 1

The Only 1 ネタバレなし感想

この小説は普通の小説ではなく、「リアル脱出ゲームノベル」というカテゴリーになっています。ですから、いわゆる文学作品ではなく、1冊の本の形をとった謎解きエンターテイメントとでもいうべきものです。

しかし、形式的には普通の小説同様に読み進めていくことができ、ゲームブックによくある「選択肢を選んで○○ページへジャンプ」などは基本的にありません。

内容的には、魔法やドラゴン、エルフにドワーフ(妖精の一種?)までもが登場するファンタジーです。

私自身はファンタジー系の小説を読むことはほとんどなく、基本的にはリアル志向の作品が好きです。多少現実離れした設定のミステリーやホラーならよいのですが、魔法や異世界など、何でもありになってしまうのは好きではないのです。

ただし、今回はゲームノベルということで、興味をもって読んでみました。謎を仕掛けるために文学作品としての完成度は犠牲になってしまうことは予想していましたが、小説としてもよくできていました。

厳密には大人が読むのは辛いのですが、「中高生向けのファンタジー小説です」といわれたら、登場人物の悩みなどもしっかり描かれていますし、違和感はありません。

なにより、帯にある「衝撃のラスト1ページ」というのが気になり、読む原動力になります。

しかし、作者の方には大変申し訳ないのですが、個人的には満足できなかった面もあるので、そちらは以下のネタバレあり感想に書きたいと思います。強烈なネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。

The Only 1 ネタバレあり感想

この本に仕掛けられた最大のトリックは、ファンタジーに見せかけた「現実の出来事である」ということです。といってもノンフィクションというわけではなく、現実的な世界観の小説である、という意味です。つまり魔法もドラゴンも存在しなかったのです。

まず、この趣向を思いついたことと、それを形にした労力は素晴らしいと思います。短編やショートショートならまだしも、この本は300ページ近い長編なのです。この仕掛けを成立させつつ、ファンタジー小説としても矛盾しないようにする離れ業をやってみせたのです。

もし、この趣向に最後まで気付かずに読んでいたら、その大どんでん返しに大変感動していたことでしょう。

しかし、私は不幸なことに最初の2ページで、これが現実世界をモデルにしていることに気が付いてしまったのです。そして読み進めるうちに一層確信してしまいました。ですから私はこの本最大のカタルシスを感じることができなかったのです。

「水に恵まれた蒼の世界」=地球、「ナパージュ諸島」=日本列島(JAPANを逆から読んだもの)などの表現には1秒で気付きました。

しかし、謎というものを仕込むのは難しいのです。マジックと違い、謎解きというのは「謎解かせ」でもあります。適切にヒントを出して、ちょうど良い難易度にしなくてはいけません。難しすぎても、簡単すぎてもいけない。それは逆にいえば、どんな謎を作ろうとも、それはある者にとっては難しすぎ、ある者にとっては簡単すぎになるのが宿命なのです。ですから、人によってはこの本に大いに驚き、感動した方もたくさんいると思います。

また、もう一点不満だったのが、この本は一冊で完結せず、本書を読んだ後にPCまたはスマートフォンを使って特設サイトを開き、解決編を読まないといけない点です。それが結構大量のPDFとなっています。謎解きゲームではよくある仕様ですが、小説はあくまでオフラインで本一冊の中だけに収めてほしかった気がします。

300ページもの長編となれば、やはりもう少し小説としての面白さがなくては辛いと思います。あるいはパズルブックとして割り切って、謎解きのギミックに特化させても良いかもしれません。次回作に期待したいと思います。

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