種や仕掛けはマジシャンを守ってはくれない

私が初心者の方にマジックを指導するとき、意外に思うことや不思議に思うことがたくさんありますが、そのうちのひとつ、「種に守ってもらおう、仕掛けに頼ろうとする考え方」について書いてみます。

マジックの初心者の方や、長年やっていてもあまりきちんと学んだことがない方はなぜか物理的な種や仕掛けを好む傾向があります。しかし、多くのプロマジシャンからすると、種や仕掛けは素晴らしい効果を生む一方で、その扱いや証拠の隠滅がやっかいで非常に神経を使います。むしろ、なんの種も仕掛けもないトランプを使ったマジックの方が、弱点が少ない分、気楽に演じることができます。

初心者の方がいろいろな種や仕掛けに興味をもつのは理解できますが、それなりに長くやっている方が「私はテクニックがないから種や仕掛けを使う」などと言ってしまうのを見ると、どうしようかと思ってしまいます。そんな間違いを言ってしまうのは、突き詰めればその人が今までに出会った指導者や、動画教材のせいだと思います。

私が思うに、マジックの種や仕掛けというのは鳥の卵のようなものです。これから雛が生まれて、様々な可能性をもっている反面、外敵に見つかったり、強い衝撃を与えれば簡単に割れてしまいます。だからマジシャンは親鳥のように、種や仕掛けを温め、育み、守っていかなくてはいけません。ギミックに頼ろうなどとすると、あっという間に破綻します。

ギミックを使うなと言っているわけではなく、ギミックに頼ってはいけないのです。ギミックが生きるように、マジシャンが最大限の御膳立てをすることで、ようやくギミックは力を発揮します。

もしかすると、私のマジック講座を受講されている方の中には、あまりにギミックが少ない(時期にもよりますが)ので驚く方もいるかもしれません。しかし、マジックとしてはあくまで標準的で、スタンダードなものを扱っています。

物理的な仕掛けがなくても、手順の中に巧みな原理やハンドリングを忍ばせることで、初心者でも簡単に演じられるマジックはたくさんあります。むしろいつばれるか不安なギミックより余程初心者に向いていると思います。

生まれたばかりの卵は自分を守ってはくれません。その卵を生かすも殺すもマジシャン次第です。

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