FISM2025と道具の意味

先月、FISMイタリア大会が行われ、日本からもたくさんのコンテスタントが出場しました。

受賞された皆様、本当におめでとうございます。

私自身もFISMほど大きな大会ではありませんが、コンテストには何度も出場したことがあります。

コンテストで優勝または入賞できるのは出場者の一握りであり、負けて悔しい、辛い、恥ずかしい思いをする恐怖に打ち勝って、審査員の前で演技したすべてのコンテスタントに敬意を表します。

今回、ステージ部門グランプリとマニピュレーション部門1位になったイタリアのデラボナさんとマニピュレーション部門2位になった韓国のホジュンさんの演技がYouTubeに投稿されていたので早速拝見しました。

以下の動画の演技は時間的に短いため、おそらく短縮バージョンの演技であり、FISM本番でのいわゆるフルルーティーンではないと思われますが、雰囲気は伝わるかと思います。

お二人とも佇まいからして格好良く、マジックとしても完全に空の手からカードが出る、消えるというマニピュレーションの理想を具現化したような素晴らしい演技です。

同時に昨今のコンテストにおけるステージ・マニピュレーションの特徴もよく表れています。

無地のカード

お二人の演技の共通点として、トランプではなく、真っ白なカードや無地のカラーカードを使っている点が挙げられます。

これは今に始まったことではなく、10年以上前からのマジックコンテストの文化です。

実は私はこれに関しては少しもったいないかなと昔から感じています。

というのも、マジックの道具というのは観客から見てよくわからない道具が多い中、トランプは誰でも知っているという強みがあるからです。

これを真っ白なカードにしてしまうと、少なくともトランプではなくなり、印刷していない名刺のような印象になります。

ましてやカラーカードになると、「いろんな色のカード」としか言えないような代物になります。

四つ玉やシンブルに理由付けが難しいのと違い、トランプはそのままで道具として成立していたのにもったいないと感じるのです。

また、マジシャンによっては真っ白なカードを扱いながら、徐々に色柄が現れ、最終的にトランプになるようなタイプの演技をする方もいます。

私はこちらの方が理解できます。

というのも観客の思考の流れとして、「おっ、真っ白なカードが出てきたぞ。あれは何だろう?模様が出てきた。トランプだったんだ」という風に経路が付けられているからです。

真っ白なカードは抽象的で、観客にとって想像の余地を残しているともいえます。

しかし、最後まで無地のカードのままでは、結局何を表現したかったのか伝わらなくなってしまうのではないでしょうか?

そもそも無地なら、長方形である必要もなく、正方形や丸、三角形でも良いのではないでしょうか?

真っ白なカードはあまりに意味を奪われすぎて、観客の創造に丸投げになってしまいます。

マジシャンの側で明確に表現したいものを用意し、かつそれが伝わるように工夫してくれれば、より大きな感動が生まれる気がしています。

とはいえ、言うは易く行うは難し、それができるのは未来のスターかもしれません。

道具の意味とメッセージ性

そもそも私の考えとして、必ずしも道具の意味付けや、マジックにメッセージ性が必要だとは考えていません。

ただし、それはエンターティナー的に演じるのであれば、という条件付きです。

ジャグラーはボールやスティック、ディアボロなどを使って私たちを楽しませてくれますが、観客はあのスティックは何だろう、あの鼓型の道具は何だろうとは考えません。

そういう道具を使って楽しませてくれているのだ、と深く考えないのが普通です。

マジシャンが使うトランプやボールも同様で、それらを使ってエンターテインしてくれるのならば、「なぜトランプを使うのか?」とは考えないものです。

ところがあまりに深刻な表情で真っ白なカードを見つめてしまうと、観客は急にメッセージを探し始めます。

例えば「あれは実は大切な人からのメッセージカードなのではないか?」「別れた恋人の写真なのか?」などです。

しかし、それに対する答えをマジシャンが用意しないのは少し不親切です。

グランプリのデラボナさんは、おそらく流れる時間の象徴として真っ白なボールとカードを使っているのだと思いますが、これでも完全に納得できるわけではありません。

なぜ真っ白なボールやカードが時間を象徴しているのかわからないからです。

もし時間を象徴するオブジェクトを選ぶなら、例えば砂の方が良いはずです。砂時計もありますし、万物はやがて朽ち果て、砂に戻るという点で、時間の流れを連想させるからです。

マジックとしては凄いのでショーとしては成立していますが、観客は心の片隅に疑問を感じながら見ることになってしまいます。

この記事を読んでくださった方は、ぜひ上の2本の動画も見ていただければと思います。

皆様はどうお感じになったでしょうか?

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