今回は待望の新刊奇術書「ヒロ・サカイ マジックコレクション」をレビューします。ヒロ・サカイさんの作品をカズ・カタヤマさんが描くという日本のマジック界を代表するお二人の本なので、私がレビューするまでもない超大作なのですが、僅かな注意点と、掲載作品の中から個人的おすすめマジック5選を紹介します。
僅かな注意点
初心者お断り
この本の冒頭にも書かれている通り、ある程度マジックに精通した方を対象としており、初心者の方が、この本だけを買ってもほとんど実現できない可能性が高いです。とはいえ、どうしてもいつか演じてみたい作品がある、という場合、絶版になってからでは遅いので今のうちに買っておいた方が良いということはあります。
ダックチェンジの解説
この本の目玉のひとつでもあるダックチェンジですが、私は過去に習得済みだったので、今回の解説を読んで細かく確認できたので良かったのですが、初めてこの技法を練習するという方には難しく感じました。
というのも、やはり動的な映像と違い、静的な文章とイラストのみでは、カードのしなり、動き、回転などがどうしてもイメージしずらいのではないかと思ったからです。この本の特徴として、インターネット上の動画サイトと連携して、本の各ページに載っているQRコードをスマートフォンなどで読み取ると、実演動画を見ることができ、そちらを注意深く見れば少しイメージしやすくなると思います。
しかし、そちらも実演のみで、解説はないため、それでも難しい感はあります。もし、本書を買って、ダックチェンジが難しいと感じた読者はYouTubeなどで検索してしまうと思いますが、そうすると非公式の解説がたくさん出てきて、皮肉にもそれらの方がわかりやすいという事態に陥ってしまうのは残念ですが、仕方のないところでもあります。
それでも、今までは、考案者どころか技法名まで曖昧に伝わっていたダックチェンジという技法がヒロ・サカイさんが考案したものであり、本家本元のやり方はこれですよ、というのをマジック界に広く知らせたのは大きいと思います。
おすすめマジック5選
この本に収められている作品は経験者であっても難易度の高いものや、準備が大変なものなども含まれているので、難易度や準備、演じる機会などを考慮した私の個人的なおすすめ作品を5つ紹介したいと思います。
サンフラワー
この本としては比較的簡単なカードマジックですが、セルフワーキングではないため、練習しがいもあり、見た目の複雑さや数学っぽさもありません。
シュレディンガーの札
これも簡単なのに素晴らしいカードマジックで、安易なセルフワーキングではなく、非常に不思議かつ、演者も演じていて楽しい作品だと思います。
バンド・イット・ラン
これは輪ゴムとカードを使った大傑作トリックで、私が知っているだけでもかなりバリエーションがあります。その本家本元で、難易度は前の2作品よりは高いですが、素晴らしいマジックです。輪ゴムは16号がよいとのことですが、個人的には少し大きめの18号がやりやすいと感じました。
ツイスト・チェンジ
コインの技法で少し難しいですが、2枚のコインがあれば手軽に練習できて、個人的なお気に入りです。スペルバウンドやワイルドコインなどに使えそうです。
ムーンライト・ロープカット
舞台で役者さんに指導するためにつくった作品ということで、比較的難易度の低いロープマジックです。とはいえ、細かなハンドリングは注意深く練習しないといけません。かなり大人数でも対応できる点でも優れています。
さいごに
この本を読んでいると、時代の移り変わりの速さを感じます。例えば、タバコが時代に合わなくなってきたから乾電池に置き換えた作品、携帯ストラップを誰も付けなくなったからレジ袋に置き換えた作品、というのがありましたが、ほとんどのガジェットが充電式になった今では乾電池も少し古く感じますし、レジ袋も有料化されてエコバッグの時代になりました。乾電池もレジ袋も消えてはいませんが、旬な感じは薄れています。逆に言うと、マジックは常に素材を変えて生き残っていかなくてはいけないものなんだなと思います。
また、この本は本当にユニークなアイディアにあふれた個人作品集で、スタンダードな教科書ではありません。もしスタンダードな作品を知らない方がこの本を読んで練習しても、どこがその作品の特色なのかが不明瞭になって、その良さが消えてしまいそうです。この本を読むと同時に、もう一度従来の作品も勉強しなおしたいところです。