「知らない」から「知っている」へ、「知っている」から「できる」へ

マジックを学ぶ過程には必ず、そのマジックを「知らない」状態から「知っている」状態へ、そして「知っている」だけの状態から「できる」状態へのステップがあります。しかし、それが一筋縄ではいきません。

まず、知らないことを知るのはとても楽しいことです。人間は誰でも知的好奇心があるからで、それはとても素晴らしいことだと思います。しかし、知っているだけの状態から、できるようになるためには大変な困難を伴います。そしてできるようになる過程の中で、自分は知っているつもりだったけど全然わかっていなかったことに気付くものです。

なぜ、実際にできるようになるのに苦痛を伴うのかといえば、それは知っていることを繰り返すことになるからです。人間はとても飽きやすい生き物ですから、2~3回で飽きます。それを10回20回、100回200回と繰り返すのは大変な苦痛を伴います。

もしマジックを楽しみたいだけなら、現在最も適した方法はYouTubeだと思います。素晴らしいマジックの演技を見られると同時に、ありとあらゆるマジックの種明かしも見られるからです。おそらく既に世界中に一生懸けても見きれないほどの動画がアップロードされていると思います。

もし私がマジックを指導するとき、楽しみだけを提供しようとするなら決してYouTubeには勝てません。それはもう既に私の仕事ではなくなっていると思います。

もし私にできる仕事があるとするなら、それはわずかな楽しみと大いなる苦しみを提供することです。

なぜ苦しんでまでマジックを覚えるのかといえば、それはその先にある「楽しませる」という状態を目指すからです。

新しいマジックを見る、新しいマジックの種を知る、という行為だけをしていれば、楽しいだけで済んだはずですが、自分が楽しむのではなく、誰かを楽しませるためには、自分が苦しまなくてはいけないのです。

だからマジックは誰でも上手になれるわけではありません。誰かを楽しませるために、自分が苦しむ覚悟をした人だけがマジシャンになれます。そしてそれはプロでもアマチュアでも同じだと思います。

しかし、私がどんなことを考えて、どんなことを書いたとしても、このブログを読んでいる人の数は限られていますし、そもそも百の言葉で説明しても伝わらないことはよくあることです。だから私は、たとえ100分の1しか伝わらなかったとしても、マジックで表現していきたいと思っています。

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