サイトメニューの「教室情報」と「出演依頼・お問い合わせ」を更新しましたので、よろしければご覧ください。そして本文では「相性の悪いマジック」について解説します。
マジックは個別に見ると良いマジック、成立しているマジックであっても、組み合わせると矛盾してしまうマジック、相性の悪いマジックというのがあります。これを考慮してマジックを組み合わせる(手順、プログラムを作る)ことができるようになれば、目に見えない靄を解消することができます。いくつか例を挙げて考えてみましょう。
「ギャンブル・デモンストレーション」と「メンタル・カードマジック」
ギャンブル・デモンストレーションとは、イカサマギャンブルを再現してみせるマジックの総称であり、代表的なのはポーカー・デモンストレーションです。よくシャッフルしたはずのトランプを配ると、マジシャンの手元にだけロイヤル・ストレートフラッシュがきている、などの例があります。
これはこれで凄い現象であり、特にギャンブルに興味のある観客からすると大変ロマンのあるマジックです。しかし、この後にこんなマジックをやったらどうでしょう?
お客様の選んだカードを戻してよく切り、さらに好きな数字を一つ言ってもらいます。その数字の枚数だけ配ると、先ほど選んだカードが出てきました。これはメンタル・カードマジックの一種です。
単独では良いマジックなのに、ポーカー・デモンストレーションの後だとなんとなく見劣りしてしまうのではないでしょうか?数十枚のカードを自由自在にコントロールできるマジシャンなら観客のカード1枚コントロールするくらい訳もないだろうと思われてしまうのです。
ちなみにこれは順番を入れ替えても同じで、先にメンタル、後からポーカーを演じたとしても、「さっきのマジックもマジシャンの巧みなテクニックによって、上手くやったのだろう」と思われて効果を損ないます。
ビル・チェンジとペンスルー・ビル
ビル・チェンジはお札が変わるマジック、典型的なのは千円札が一万円札になったりするもので、ペンスルー・ビルはペンをお札に突き刺しても穴が開いていない、というマジックです。どちらもお札のマジックなので、つい組み合わせて演じたくなるのですが、実は相性はあまり良くありません。
ペンスルーは小さな穴が塞がるというミクロな復活現象なのに対し、チェンジはお札1枚丸ごと別物に変化してしまうという大きな現象です。どちらも単独では素晴らしいマジックなのに、組み合わせて演じると相乗効果どころか足を引っ張りあって印象がぼけてしまいます。
シンパセティック・シルクとドリーム・シルク
これも言わずもがなですが、シンパセティックはマジシャンが触れてもいないのにいつの間にかシルクが結ばれたり、ほどけたりする現象、ドリーム・シルクは次々とシルクが結ばれて出てくる現象です。
ドリーム・シルクの最大の問題点は結ばれたシルク同士を引っ張って次々とほどいてしまう動作です。単独で見れば「スカーフを甘く結んでおけば簡単に引きほどけるのだろう」と思われるくらいで何の問題もないのですが、シンパセティックではしっかりと結んでほどけないことを強調したいので、どうにも矛盾します。これらも基本的には同時に演じるべきでない作品です。
スタンスを決める
実はこのようなマジック同士の相性を考えた先に、マジシャンのスタンスの決定があります。つまり自分はマジシャンになりたいのか、テクニシャンになりたいのか、はたまたメンタリストになりたいのか、etcということです。最初は様々なマジックを学ぶことは重要ですが、徐々に自分の好みや趣味嗜好がはっきりしてきたら、ある程度自分の演じないマジックを捨てる勇気も必要です。
例えば、「自分はメンタリストになりたいから、お気に入りのポーカーデモンストレーションとは決別する」とか「シルクマジックはもっと丁寧に表現したいから、シルクを乱暴に引きほどくマジックは演じないことに決める」などです。
あくまで私の個人的な感覚ですが、マジックを上手に演じられるのが中級者だとしたら、その上で自分のスタンスによって演目を取捨選択できている人は上級者だなと感じます(ただし初心者のうちはあまり食わず嫌いせずにいろいろ挑戦しましょう)。