手品の語源は「手」+「しなる、しなやか」と言われています。他にも俗説や言葉遊び等、諸説ありますが、今回は語源とは別に、私が考えた手品の心得を紹介してみます。
「品」をそのまま「品物」と解釈し、手品=手×品というものです。つまりマジックの出来栄えは、マジシャンのテクニックと道具の質との掛け算で決まる、という考え方です。何を言いたいかというと、プロであってもアマチュアであっても、技術と道具、どちらも大切にしてほしいということです。
道具ばかり立派でも、全然練習せずに技術が足りなくては、失敗ばかりで上手くいかないのは言うまでもありません。
一方、テクニックさえあれば多少粗末な道具でもマジックができる、という考えも注意が必要です。確かに上手いマジシャンであれば、子供に借りたボロボロのトランプでも何らかのマジックを演じることはできるかもしれません。しかし、ベストなマジックではないはずです。
また、練習についてはもっと危険です。練習とは身体がその道具に馴染んでいくことでもあります。質の悪い道具に自分の体を馴染ませてしまったら、もはや上達とは呼べません。練習が全て無駄になるどころか、害になってしまいます。
当然ながら本番でも道具の質は大切です。特に本番では、道具の機能面はもちろん、外観にも気を使わなくてはいけません。ボロボロで汚い道具はお客様に対して失礼でもあります。マジシャンの目的は、マジックを通じて人々を幸せにすることのはずです。粗悪な道具で、見る人の心を豊かにすることができるでしょうか?
「物を大切に長く使うのは良いことだ」という考えもあると思います。マジックの場合は道具の種類によります。コイン、カップ&ボール、リンキングリングなどは長く使える道具の代表で、まさしく1回買えば一生ものです。他にも木製や金属製で質の良い道具は非常に長く使えるものがあります。一方、トランプ、シルク、ロープなどは消耗する道具の代表で、どうしても長く使うことはできません。だからといって、安くて粗悪なものを使うのは本末転倒です。
手品=手×品という公式は、なかなか覆ることのない真実だと私は考えています。技術と道具、どちらか一方でもおろそかにしたら掛け算の結果は低い数値になってしまうのです。
マジックの道具にいくらかけるかは人それぞれですが、無理のない範囲で、技術と道具の両立を図っていただきたいと思っています。