コロナも落ち着いてきたので、現在休職中の岡井泰彦君に久しぶりにお会いして、お互いの近況報告やマジックの話などしてきました。大変有益な話も多く、岡井君の厚意もあり一部をブログで公開します。
岡井君は私より一つ年下ですが、本当に凄腕のマジシャンで数々のコンテストやイベントで活躍しました。しかし、体調の問題があり、最近は少しマジックから離れていたようです。私との関係は私が高1、彼が中3くらいのときから続いており、お互いのマジックのテクニックや研究成果を見せ合ったり、教え合ったりしていました。
岡井君の体調はだいぶ良くなってきたように見え、また、少し離れていたとはいえ、相変わらずマジックの幅広い知識と高い技術、深い考察とマジック愛にあふれているようでした。
アウト・オブ・サイト・アウト・オブ・マインド
岡井君の知られざる(?)ペットトリックの一つで、原案はかのダイ・ヴァーノンです。以下の本にも「カードの読心術」として掲載されています。
高等技法を要するマジックではありませんが、自然に演じるためには多くの練習と実践が必要なマジックです。岡井君は、よりシンプルにハンドリングを変更していました。彼のイチオシのマジックのようです。
あなたの数字がーあなたのカード
これはロベルトジョビーのカードカレッジ①に掲載のマジックで、これもまたメンタルマジックです。私もこの本は愛読していましたが、このマジックは見逃していました。
岡井君は素晴らしいテクニックを持ったマジシャンですが、同時にテクニックの限界も知っています。だから無理な技法を使うよりも最低限の技法で種がわからないマジックを好むようです。
悟空の玉
「悟空の玉」とは、かつてテンヨーで発売されていた簡易的なカップ&ボールの商品名で、今ではボールがカップの底を連続して貫通する手順の呼び名として定着しています。現在でもメーカーは違いますが、以下の写真のような同等品が販売されており、簡単に入手可能です。
岡井君はこれを商品付属のプラスチックカップではなく、お洒落な紙コップとフェルトボールで演じるようです。「いやいや、そんなばかな!岡井君ならバーノンやアマーの手順が楽々こなせるだろうに、こんな子供だましの手順をやるわけがない!」と思う方もいるでしょう。しかし、岡井君の技量をもってしてもバーノンの手順は少し不安があるそうです。
それだけバーノンの手順が難しいのと同時に、悟空の玉の手順なら準備も簡単で角度にも強いです。逆に言うとこんなにシンプルな手順で、ファイナルロードもなしにプロの現場で成立させることができるのが岡井君の実力なのです。
もちろんフル手順のカップ&ボールと違い、時間的にも短いですし、ショーのクライマックスとして演じることはできませんが、あくまで軽い1ネタとしては十分な反応が得られるそうです。
「日常品は日常的に取り出し、非日常的な道具はマジック的な方法で取り出す」理論を疑う
これはマジック作品というよりマジックの演出全般に対する考え方です。多くのマジシャンは「日常品は日常的な方法で取り出し、非日常的な道具はマジック的な方法で取り出すべきだ」と考えているようです。
例えば、ペンとか、コップとか、携帯電話とか、日常的に見慣れた道具はポケットやカバンなどから普通に取り出すのが自然であり、逆に四つ玉のボールやシンブル、マジック用のシルクなど、日用品でない見慣れない道具に関しては空中から出現させるなど、マジック的な方法で取り出さくてはならない、とする考え方です。
岡井君はこの、いわばマジック界の常識に対して懐疑的です。例を挙げると、ペンやグラスなど、皆が知っているものを空中から取り出すと大変効果があります。ところが、四つ玉やシンブルなどのよくわからない物体をいきなり空中から取り出しても、多少驚きはしても「そもそもこれは何なんだ?」という疑問が湧いてしまい、効果が落ちます。
四つ玉のように、よくわからない物体こそ、まずはカバンやポケットから普通に取り出し、これがなんの仕掛けもない固いボールであることをしっかり示してから、マジックに入ったほうが効果がある、というのが岡井君の考えです。これには私も賛成です。
話はまだまだ…
話はまだまだたくさんありますが、ここまで記事を読んでみて、参考になったり、興味をもっていただけたでしょうか?今後も続きを書くかもしれません。