今回も岡井泰彦君との会話の中から、私自身の備忘録として、またできるだけ多くのマジックを愛する方の参考になる部分を書き留めておこうと思います。
30分のパーラーショーをカードだけで構成
パーラー(客数10~100名位?)において、岡井君はカードだけで30分のショーを構成できるそうです!これは私にとって驚くべきことで、私なら30分のショーで5~10種類くらいの道具を使うと思いますし、おそらく他の多くのマジシャンもそうだと思います。
内容としては、いわゆるサロン向けカードの手順で、カード当てやサインカードの手順、メンタルや、カードの枚数に着目した手順など、様々な現象を織り交ぜて展開していくそうです。
岡井君はステージでのカードマニピュレーションのイメージがありますが、実はクロースアップやパーラーでのカードマジックの研究も凄まじいものがあります。
現象は一つも捨てない
岡井君のショーを映像やライブで見ると、普通のマジシャンに比べてかなりしっかりと間(ま)をとっていることがわかります。たった一つの現象の後には、必ずお客様が驚いて声を上げたり、拍手をする十分な時間をとっているのです。
といっても、決めポーズをつくったり、拍手を強要するような仕草をすることはなく、どちらかと言えば、お客様の拍手や歓声を遮ってまで手順を先に進めない、といった感じです。
この点はフレッド・カップスのような往年のマジシャンと大きく異なります。キャバレー、ナイトクラブスタイルのマジシャンたちは、ウケようがウケまいが、観客が見ていようが、余所見していようが、どんどん手順を進行していきます。
岡井君の場合は、お客様がきちんと見ている前提で、一つも現象を捨てることなく、軽く流すことなく、きっちりと見せていきます。自分が普段、無意識に流して演じてしまっていることを思い知らされます。
噴水カードより木の葉カード、鉄板ネタ
ミリオンカードのエンディングの定番として、噴水カードがあります。しかし岡井君は噴水を使わず、オリジナルのインターロックト・カード・プロダクション、いわゆる木の葉カードで締めています。
その理由は単純明快で、「噴水カードはウケないから」、そして「木の葉カードはウケるから」だそうです。他にも、マジシャンの間では鉄板ネタとされているアピアリング・ケーンも、同様にウケないからという理由で使わないそうです。
一般的には鉄板ネタといわれる噴水カードやアピアリング・ケーンですが、どちらもびっくり箱的に驚かせるだけで、実はマジックとしての本質的な不思議さとは別物です。だからこそ岡井君のショーの中では他の演目とうまくマッチせずに浮いてしまい、思うような反応が得られないのだと思います。
どのマジックを演じ、どのマジックを演じないか。自分のスタイルに合わせて取捨選択していく姿勢が大切です。
ゾンビボール、ダンシングケーンは浮揚時間をできるだけ短く
これはかなり具体的なアドバイスになりますが、ゾンビボールやダンシングケーンは浮いている時間を極力短くすることが大切だそうです。
ゾンビボールではスカーフの下でふわふわと動くパートが、ダンシングケーンではマジシャンの手から離れてケーンがダンスするパートが最大の見せ場です。そのため、この部分の時間を長くとってしまうマジシャンが多いのですが、それが危険です。
ボールやケーンが浮かびはじめたら、もうそれ以上がありません。いくら不思議な現象でも、長い時間浮かせ続けていると次第に当初の驚きは薄れていき、それどころか、なぜ浮いているのか考える時間を与えすぎてしまうことで、種の発覚にもつながります。
ゾンビやケーンはむしろ浮かぶまでが華と考えて、十分に期待と興味を盛り上げていき、少し浮かんだらそこがピークですから、早めに切り上げるのが吉ということです。これは岡井君の師匠である故・北見マキ氏の教えでもあるそうです。
ゾンビボールやダンシングケーンは今でもマジッククラブの発表会などで人気の演目でもありますので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
まだまだ…
アスカニオとタマリッツが、会うたびに長時間マジックの話をしていたように、私と岡井君も会うたびに長時間マジックの話をします(もちろん、この二人と比べるのは大きく出すぎですが)。二人の話はまだまだ続くかもしれません。