クロースアップが隆盛して久しいですが、昔ながらのステージマニピュレーションも根強い人気があります。そこで今回は、私の経験と反省から、これからスライハンドを志す方にぜひ理解していただきたいポイントを挙げてみます。どうか私の言葉を信じて、ご自身のマジックに役立ててください。
スライハンドの心得1 現象の成立
スライハンドを演じる上で皆さんに最も重視していただきたいのは、現象が成立しているか否かです。基本的にスライハンドの現象は出現、消失、移動、変化などです。しかし、種が見えてしまっているとそもそも現象が成立しません。しかもそれはお客様からすれば、「あっ、種が見えた!」などという生易しいものではなく、「何が起きたのかすらわからない」という状態に陥ります。そうなると、もはや観客にとってそのマジックを見ること自体が苦痛となり、場合によっては見るのを辞めます。仮に離席していないとしても、心の中で見るのを辞めてしまいます。
一般のお客様はマジシャン以上に現象の成否にシビアです。スライハンドはひとつの手順の中で現象が多くなりがちですが、その起こす現象すべてが成立するように手順を組まなくてはいけません。つまり、出現なら出たように、消失なら消えたように見えなくてはいけません。当たり前のことのようですが、これをクリアするのがスタートラインであり、名手となるための必須条件です。
逆にいえば出現すべきところで出たように見えない、消失すべきところで消えたように見えないのであれば、その都度手順を改変・修正しなくてはいけません。
スライハンドの心得2 フラリッシュ(曲技)はフラリッシュとわかるように
「現象が大切」というのであれば「フラリッシュ(曲技)はやってはいけないのか」というとそんなことはありません。ただし、フラリッシュとはマジシャンの高い技術を見せびらかす曲技です。もしやるのならきちんと見せびらかさなくてはいけません。
一番まずいのはフラリッシュをつっかえつっかえ演じることで、これではフラリッシュの意図が伝わりません。下手をすれば観客に、「これは何かのマジックをやろうとしているのだろうか?」などと疑問に思われてしまい、かといって結局現象も起きないのでやはり観客の興味が離れてしまいます。
曲技は曲技とはっきりわかるように演じることが大切で、そのためにはスムーズにできることが絶対条件です。そうでなければフラリッシュになりません。
スライハンドの心得3 技法の難易度に囚われない
これは多くのスライハンドマジシャンにとって特に注意しなくてはいけないポイントで、とかく難しい技法をやろうとしがちです。難しければ難しいほど良いテクニックだと思い込んで無理な手順を作った結果、本番で失敗してしまうことが良くあります。
自分にとって余裕をもって使える技法のみで手順をつくるべきで、難しい技法も、自分にとって簡単だと思えるようになってから手順に入れなくてはいけません。
また、そもそも技法の難易度は重要でなく、スムーズで不思議に見える技法が良い技法のはずです。ひとつの目安として、手順を3回通し練習したときに一度も失敗しないくらいの安定感でないと安心して本番を迎えることはできません。
スライハンドの心得4 「○○はウケない」は嘘
スライハンドにおいて、特定の技法やハンドリングに関してウケやすい、ウケにくいということはありますが、そもそも「ミリオンカードはウケない」とか「四つ玉はウケない」「シンブルはウケない」といった意見は全て嘘だと思って構わないと思います。基本的にどんなマジックも上手に演じればウケるものですし、ましてや歴史あるスライハンドは本来は全て大変ウケるマジックだと考えてください。
スライハンドのウケるウケないを決定付けるのは手順ではなく、個々の技法のクオリティです。難しい技法を使う必要はありませんが、個々の技法のクオリティを極限まで高めることでスライハンドは魔法と化し、ウケるマジックになるのです。
さいごに
スライハンドの手順をつくるときは、思い切り難易度を下げるのが大切です。それはほとんどの人が自分の実力を見誤っているからです。手順をつくっているときに、「こんな簡単な手順では他のマジシャンから馬鹿にされるのではないか」という恐怖に打ち勝たなくてはいけません。
マジシャンが馬鹿にされるのは手順が簡単なときではなく、本番で失敗ばかりするときです。これを念頭に練習、手順作りをしてください。