ステージマジック 身体のさばき

ステージマジックで難しいもののひとつは身体の姿勢や動きなどです。これは一朝一夕では身に付けづらく、また、独学で客観的に修正していくのも不可能ではありませんが、なかなか大変な作業です。一方、適切なアドバイスがあったり、練習時の意識を高めたりすれば、すぐに良くなる場合もあります。今回は具体例をいくつか挙げてご紹介してみようと思います。

一人ひとり体付きや姿勢、動きの癖などが違いますので、一概にはいえませんが、私はまず足の位置を調整するのが良いのではないかと思っています。

まず、ステージマジックの基本的な足の位置は下の写真のような状態です。

片足がまっすぐ前を向いていて、もう片方の足が半歩後ろで斜めを向いています。

とはいえ、常に脚を閉じていると棒立ちのような状態となり、メリハリもなく不自然です。そこで以下のような状態になることもあります。

先ほどの状態から少し崩れた状態ですが、これらもパフォーマーの立ち方として不自然ではありません。動き、姿勢によってはさらに両足の間隔が広がることもあります。

左右対称に少し脚を開いた状態です。これもパフォーマーとして自然な立ち方です。

次の写真はどうでしょうか?

前足が外に向いており、あまり良い形ではありません。この場合は左足を後ろに引くと自然で良い形になります。

上の写真では両足ともほぼ横を向いてしまっており、これもあまり良い位置ではありません。パフォーマーは基本的に真横を向くことはなく、横を向いているようでさりげなく斜め前を向いて表情を見せるようにするのが大切です。

このように足の向きを意識するのはステージでの身体のさばきの第一歩ではないかと思います。

次に上半身を見てみましょう。次の写真はどことなく変に感じるはずです。

私が指摘するとしたら次の3点です。

まず、肩が上がってしまっています。緊張したり、力が入ったり、あるいはいつもの癖で肩が上がるのはよくあります。肩を下げるのはステージでの基本です。もちろん演劇などでは、怒り、緊張、不安などを表現するためにわざと肩を上げることはあるでしょう。

次に、ステージマジックとしては手に持っている対象物(この場合はカード)と身体の距離が近すぎて窮屈に見えます。道具と身体は離して持つ方がゆったりと大きく見えます。

最後に、左手が真下に下がってしまっています。右手が動いているときに左手が死んでいるのは不自然です。右手を伸ばしたら、左手も自然に曲げます。

この3点を実践すると下の写真のようになります。

先ほどよりも自然で、安定しているように見えます。具体的には両肩が下がっており、道具(トランプ)と身体の距離が離れています。そして左手はさりげなく曲がっており、だいたいベルトくらいの高さになっています。実は使っていない手もさりげなく動いているのです。

これはあくまで一例ですが、たった3分のマジックでも一つひとつの動き、姿勢、足の位置を定めて演じるのが、いかに大変かということがお分かりいただけたかと思います。

実を言うとクロースアップでも身のこなしが大切であることに変わりはないのですが、クロースアップの場合は他に様々な要素があって身体の状態を丁寧に表現することにあまり意識を割けない部分があります。

しかし、デビッド・カッパーフィールドやランス・バートンのような一流のステージマジシャンは、ちょっとしたクロースアップを演じても非常に良い雰囲気を醸し出します。これはステージのショーマンシップがクロースアップにも生きている証拠なのではないかと思います。

最後に、ステージで良い姿勢、良い動きをするためのとっておきのコツをご紹介しましょう。

それは「練習では徹底的に意識をし、本番では全部忘れて臨む」です。良い姿勢、良い動きというのは練習でしか身に付きません。ですから、練習時にいかに意識的に良くできるかが大切です。しかし、本番でも同様に意識してしまうと、まるでロボットのような不自然な動きになります。むしろ本番では全部忘れて、目の前の観客を楽しませることに集中するのが良いのです。

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