ミリオンカードの手順を作るときに考えること

今回はミリオンカードについて、かなり深い話をしたいと思います。このことを理解しているかどうかで手順の作り方が変わってくると思いますので、ミリオンカードを演じる方や、興味のある方は是非読んでいただきたいと思っています。

ミリオンカードは特殊なスライハンド

まず、ミリオンカードは数あるマニピュレーションの中でもかなり特殊な性質を持っていることを頭に入れておきましょう。それは出現させた物をすぐに捨ててしまうことです。

例えば四つ玉なら出てきたボールで出現、消失、移動などを演じて大事に扱います。捨てるとしても、それは多くの場合、4つなり8つなりに増えて、演技が一段落したから捨てるという感じです。

ところがミリオンカードは出るたびに捨てる、という感じです。これではトランプというものが「欲しいもの」なのか「いらないもの」なのか不明です。

似たマジックで、コインプロダクションはどうでしょうか?まず、コインの場合、コイン1枚で価値のある存在であるという点が大きいです。そしてペール(バケツ)に入れていくにしても、捨てているというよりは、集めているという感覚です。「ああ、こんなに出てきた。こんなに貯まった、儲かった」という気分です。コインプロダクションは意味のあるマジックであり、理に適っています。

ではミリオンフラワーはどうでしょうか?コインのように具体的な価値はないものの、花は美しさ自体が価値といえます。だからたくさん出す意義があります。そしてバスケットなどに花を入れていくと、ディスプレイとしても自然で綺麗です。仮に床にばらまいたとしても、殺風景なステージをお花畑にして飾ったイメージで、(踏まなければ)それほどおかしくはないと思います。また、そもそも花は自然物なので、地面に落ちていてもそれほど不自然ではありません。

その点ミリオンカードはどうでしょうか?まず床にばらまくのは言語道断です。通常、トランプは床に落とすと傷んで使いにくくなるものです。つまり床に落とすと、トランプとしての価値が下がるのです。マジシャンが良いと思っていてもお客様が「もったいない、使い捨てなのかな?」と思われるのはマイナスです。

では、ハットや捨て箱に入れたら良いかといえば、そう簡単な話ではありません。そもそもトランプというのは52枚そろって初めて価値のあるものです。1枚でも欠けたら価値は著しく下がります。それなのに明らかに不揃いなカードがたくさん出てきたところで価値のあるものには見えません。

それでは一体ミリオンカードはどう演じたらよいのでしょう?少なくとも、ミリオンカードがいかに特殊なマジックか、ご理解いただけたかと思います。

カーディーニの答え

このように矛盾だらけのミリオンカードにおいて、カーディーニが出した答えをご紹介しましょう。

カーディーニのミリオンカードは酔っ払いの演技です。半分夢を見ながらよろよろ歩いていると手に幻のトランプが現れます。「これはなんだ!?」という思いでトランプを捨てますが、またもや出現します。何度捨ててもトランプが出てくるのです。

カーディーニのミリオンカードにおいて、トランプは価値のあるものではありません。むしろ、恐ろしいものですらあります。だから投げ捨てるのが当然です。トランプの「出現」と「捨てる行為」、どちらもマジシャンの意思で行うと矛盾してしまいますが、「出現」は意図しないものであり、「捨てる」のはマジシャンの気持ち、とすることで矛盾が解消されました。

あなたの答え

しかし、酔っ払いの演技というのはいつでもどこでも成立するものではありません。カーディーニは小劇場のような場所で、ステージという非日常の空間があったからこそ、お芝居が成立しました。

ミリオンカードの矛盾は各自が答えを出すべき問題です。もちろん私も私なりの答えを持っています。しかし、ミリオンカードを演じるには、まず越えなければいけないハードルがたくさんあります。私がミリオンカードを指導するときは、まずはミリオンカードが問題なく演じられることを重視しますが、ある程度のレベルになったら、是非この問題について一緒に考え、話し合い、その人に合った答えを見つける手助けをしたいと思っています。

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