今回はエレベーター・カードというマジックについて、私なりに発見した極意のようなものを紹介したいと思います。
エレベーター・カードの原案はエドワード・マーローのペネトレーションといい、下記の本にも載っています。
日本ではマジシャンの間でエレベーター・カードと呼ばれるバリエーションが有名で、そちらは以下の本に載っています。
どちらも見た目は似たようなマジックですので、簡単に概要を説明します。
エレベーター・カードの概要
スペードのエース、2、3をテーブルの上に伏せて置きます。残りのトランプをスペードの3の上に乗せると、スペードの3は1組の一番上から出てきます。次にスペードの2を1組の一番上に置くと、今度はスペードの2が一番下から出てきます。最後にスペードのエースを真ん中に差し込むと、一番上から出てきます。つまりカードが1組を昇ったり降りたりするからエレベーター・カードというわけです。
エレベーター・カードの利点
エレベーター・カードは簡単とまでは言いませんが、初心者でも努力次第で習得できる難易度なのは良いところです。また、カードマジックは1枚選んでもらって、それを当てるマジックが多いので、そのような「カード当て」でないマジックは貴重です。選んだカードを覚えておくのはお客さんも疲れてしまうからです。
エレベーター・カードの問題点
エレベーター・カードを一生懸命練習して、いざ人に見せてみると、たいていの場合、反応はあまり良くありません。A~3のカードを伏せて置いておくのが原因で、お客さんはすぐにどれがどれだか忘れてしまいます。どれだけ強調して「これがエース、Aですよ!」などと言っても無駄で、表を見せてくれればよいのにそれができないので、結局効果が弱まってしまいます。
エレベーター・カードの解決法
落ち着いて考えると、実は3枚すべて紛らわしいわけではありません。A、2、3と順番に置いたのだから、真ん中が2である、というのは確かです。右端と左端のどちらがAで、どちらが3なのかというのが紛らわしいのだ、ということに私は気づきました。
そこで私は逆転の発想で、そもそもどちらがAなのかを強調しなくて良いのではないか、と考えました。3枚のそれぞれの位置をお客さんに覚えさせるのではなく、単にスペードのA~3をテーブルに置きましたよ、という気持ちで演じるのです。
するとどうなるでしょうか?お客さんにとって、どれがAであろうと3であろうと、それらは全てテーブルの上です。そのうちの1枚に残りの1組を乗せ、スペードの3が一番上から出てきたら、仮に位置関係を忘れていたとしても十分に現象は成立しています。
1枚目が終わればこっちのものです。2番目は真ん中の2のカードですから紛れません。3枚目は既に表向きの2と3があるので視覚的にもAなのがはっきりしています。
エレベーターカードの極意
というわけで私の考えるエレベーターカードの極意は、どれがAでどれが3なのかを強調せず、「A~3の3枚をテーブルに置きましたよ」と、さらりと演じることです。現象を成立させるために、お客さんの記憶を頼りにするのではなく、考えなくても不思議さを感じてもらえるようにするのが大切だと思います。
ともすれば初心者用のマジックなどと言われてしまうことのあるエレベーターカードですが、よくよく考えてみるとしっかり不思議に見せるのは難しいマジックです。しかし演じ方に気を付ければ十分に中級者以上の方にも気に入っていただける作品なのではないかと思います。(どこからどこまでが中級者なのかは私もよくわかっていませんが…)