家族にはマジックを「見せる」のではなく「診て」もらおう

マジックの初心者の方の中には、家族にマジックを見せて、ひとつ驚かせてやろう、という方も多いと思いますが、それは実際には大変難しいことです。

長年マジックをやっていて、知識と技術が十分にあれば、家族や恋人にマジックを見せて不思議がらせることもできると思います。しかし、マジックの初心者にとっては、最もだましにくいのが家族です。

家族や親しい間柄だと遠慮がなくなり、途中で口を挟まれたり、手を出されたりするかもしれませんし、少しの不自然にも気づかれます。また、マジックを見せるときの物理的な距離も近くなりがちで、それも危険を倍増させます。

まずは家族に見せて、上手くなったら友人知人、他人にも見せようと思っていたら、ファーストステップのはずの家族に必ずばれてしまって嫌になるということもあります。また、ときどき、運良く家族をだませたとしても、それで気を良くしてしまい、「このマジックはできるようになった」と勘違いしてしまうのも問題です。

家族をだませたのは、ただ単に油断していただけかもしれません。別の機会に別の人に見せたらばれる可能性は大いにあります。また、そもそも「できるようになった」という感覚こそが最も危険で、「できるようになった」と思った瞬間からどんどん下手になっていきます。

ありとあらゆる角度から、種は見えていないでしょうか?口から出まかせのセリフで、矛盾だらけになっていないでしょうか?特に独学の場合、ありとあらゆる基準が甘くなりがちです。マジックは、「できるようになる」というものではなく、磨き続けている間だけ光り輝く宝石のようなものだと思います。

一撃必中のシュートを蹴れるようになった、というサッカー選手がいるでしょうか?ホームランを打てるようになった、という野球選手はいるでしょうか?ショパンを弾けるようになった、というピアニストはいるでしょうか?

スポーツでも芸術でも、できるようになる、ということはありえません。ただひたすらに、一生懸けて精度を上げるだけです。それでも失敗するのが人間です。

では、初心者の方はどうしたら良いでしょうか?

まず大切なことは、家族に見せて上手くいったかどうかで一喜一憂するのはやめましょう。種がばれてがっかりしたり、上手くだませたからと言って慢心したりするのは良くありません。

まずは外部の人に見せるのを目標に、家族には自分のマジックを診てもらう、という感覚が良いと思います。ちょうどお医者さんに具合の悪いところを診てもらうようにです。

ただし、家族がマジシャンでない限り、完全に的確なアドバイスは望めません。種が見えていないかどうかのチェックくらいだと思います。例えば、セリフが適切かどうかのチェックは、マジックに対する非常に深い理解が必要で、普通の人は「なんかセリフが変だな、わかりにくいな」くらいの感想で、どこをどう直すべきなのか、言語化できません。

カードマジックでいえば、予言と当てものと偶然の一致は、どれも似て非なるものです。普通の人は全く区別がつきませんが、マジシャンの側は明確に区別して演じる必要があります。そうでないと観ている人は違和感や混乱によって、不思議さが減ってしまいます。

逆にセリフが明快で整理されていれば、相手がすんなり理解してくれるので、家族に見せる前にセリフは練っておいた方が良いと思います。

皆さんが素晴らしいマジックを演じるため、ご家族の方には多少犠牲になっていただく必要がありますが、誰もが通る道ですので、ご理解いただければと思います。

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