得意なマジックは無くてよい!?

マジックをしていると、よくある質問として「一番得意なマジックは何ですか?」というものがあります。ところが、そこでたった一つのマジックを答えるのは意外と難しいものです。それどころか特定のマジックを得意技とすること自体にもデメリットがあると私は考えます。

マジックは作品ごとに適した環境やシチュエーションが全く異なり、たった一つのマジックだけで勝負することはおよそ不可能だと思います。だから通常のマジシャンは様々な状況に対応できるようにたくさんのマジックを覚えなくてはいけません。

また、30分ショーをするのにたった一つだけのマジックで済むわけがないのですから、ショーの中で演じるすべてのマジックが同じくらい得意になっていなくてはまずいです。だから、たった一つだけに得意技を絞るのは簡単ではありません。

また、仮にあるマジシャンがテレビに出演して、「私の一番得意なマジックはこれです」と言って披露した場合、どうなるでしょうか?次の日にはYouTuberが「マジシャン○○の一番の得意技を種明かし」という動画を投稿するのではないでしょうか?

得意なマジックを一つだけに絞ってしまった場合、そのマジックを見破られたり、種明かしされたり、もっと上手く演じる人が現れたりしたら、そのマジシャンの存在価値がなくなってしまうのではないでしょうか?

昭和の時代や、もっと古い時代ならたった一つの優れた演目で評判を取ることもできたかもしれませんが、これだけ情報がオープンになった現代において、一つのマジックだけでOKというわけにはいかないと思います。むしろ私は総合力で勝負すべきだと思っています。

マジシャンとしての総合力というのは定義不明で曖昧なものですが、特定のマジックの巧拙を超えて明らかに実力のあるマジシャンはいますし、それだけに一朝一夕で身につくものではありません。種明かしもできないし、他人が真似することもできない、そのような能力こそが確固たるマジシャンの実力だと思います。

それでは、「得意なマジックは何ですか?」と聞かれたら何と答えるのが良いでしょうか?例えば歌手の方に得意な歌を聞いたらどう答えるでしょう?歌手なら特定の曲ではなく、「バラード系が得意です」「R&Bが得意です」とか幅のあるジャンルで答えるのではないでしょうか?マジックも同じで、できれば特定のマジックではなく、「カードマジックが得意です」とか、「トークマジックが得意です」「イリュージョンです」など、少し幅を持たせるのが良いと思います。

しかし、そもそも得意なマジックなど聞かれないのがベストです。その証拠に、本当に優れた著名な歌手に得意な歌を聞く人はいないでしょう。得意とか不得意ではなく、その人の歌が素晴らしければそれで良いはずです。得意なマジックを聞かれるのはまだまだ自分が未熟であることの証でもあります。

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