マジックにおける嘘について①

世間では嘘をついてはいけないと言われますが、マジックと嘘は切っても切れない関係にあります。マジックを演じるとき、どのような倫理観をもって嘘をつけば良いのでしょうか?

そもそも嘘をついてはいけないのか

まず、マジック以前に、一般社会において本当に嘘をついてはいけないのかどうかを疑ってみます。子供は嘘をつくと叱られ、「嘘つきは泥棒の始まり」などと言われます。メディアでも政治家や有名人の嘘が厳しく糾弾されます。まるで「嘘=悪」であるかのような、強迫観念が日本を包み込んでいます。

しかし、私は「嘘=悪」であるとは考えていません。嘘によって、誰かに多大な損害を与える場合に、嘘がいけないのであって、すべての嘘が悪ではないと思います。むしろ人々を幸せにするための嘘がこの世にたくさんあり、それが世界を支えていると考えています。

たとえば、教育の場において、ある子どもの能力が稚拙であった場合に、「下手だ、遅い、間違っている」などと本当のことを言わずに、「すごいね、上手だね、もうできたね」などとほめることでやる気を引き出し、最終的には本当にできるようにしてしまうことがありますし、スポーツで格上のチームと戦うときに、「大丈夫、絶対勝てる」などと言ってチームメイトを鼓舞する場合もあるかと思います。私はこの世は嘘がなければ1秒たりとも成り立たないとさえ思っています。

エンターテイメントの場合

芸能、エンターテイメントの場合は、さらに嘘が増えます。ノンフィクションを除いて、映画やドラマ、小説、漫画はすべて作り話ですから、全て嘘です。もし俳優が映画の中で死亡する役を演じるとき、本当に死ななければならないとしたら、役者がいくらいても足りませんし、誰も役者になりたいと思いません(笑)。

「そんな当たり前のことを」と思われるかもしれませんが、嘘に拒否反応を示す現代日本においては、これに近い勘違いは普通にあります。例えば、「残酷な描写のある小説を書いた人(または好んで読む人)は残酷な人間である」とか、「性格が良い(または悪い)役を演じた役者は実際に性格が良い(または悪い)」などです。これらは現実とフィクションの区別がつかない危険な間違いであると私は考えています。

また、演じること自体が嘘をつくことであるともいえます。演じるとは本来の自分とはまた少し違った自分を装うということですが、その点では、バラエティ番組に出演するタレントも、本来の(家にいるときと同じような)姿とはまた異なる自分を出して、表現しているという点では、役者と同じく演じているといえると思います。

これは芸能人だけでなく、すべての人に当てはまります。例えば仕事のときは、本来の自分よりも、少ししっかりとした、頼りになる人物を演じるかもしれません。それは全く悪いことではなく、周りに安心感を与え、仕事を円滑に進め、ひいては本当に立派な人間になれる可能性すらあります。すべての人は多かれ少なかれ様々な自分を演じながら生きていて、言うなれば日々幸せのために嘘をついているのです。

続きは次回

さて、今回は私の嘘に対する価値観が主となり、マジックの話にいけませんでした(笑)が、次回はようやくマジックに応用します。マジックに嘘はつきもののようですが、やはりついていい嘘といけない嘘がありますので、この辺をまとめていきたいと思います。

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