数あるカードテクニックの中でも人気で夢があるクラシックパスですが、実際には厳しい技法でもあります。クラシックパスにはどんな夢があるか、またどんな問題点があるか考察します。
まずはパスとはどのような技法なのか、動画を撮りましたのでご覧ください。
「上手い」と思っていただけたか、「俺の方が上手い」と思っていただけたかわかりませんが、私も一応一通りは練習しました。
クラシックパスの夢1 歴史がある
クラシックパスはその名の通り大変古くから行われているテクニックであり、有名なアードネスの著書にも「シフト」という名称でその記述があります。日本語版は少し手に入りにくいですが、英語版はkindleなどでもすぐに読めます。
この本の原著の初版は120年以上前ですので、少なくともそれ以前から行われていたことがわかります。そんな昔のマジシャン達もこの技法を練習していたのかと思うと大変ロマンがあります。
クラシックパスの夢2 これさえできればヒーロー!?
クラシックパスは今も昔も最難関技法です。逆に、この技法を完璧にできればマジシャンの中では間違いなくヒーローになれます。世界中のマジシャンから「君のクラシックパスを見せてくれ」とお願いされるようになるでしょう。イカサマ麻雀でいう燕返しのような存在です。カードひとつで名を成せるというのは間違いなくロマンであり、夢があります。
クラシックパスの夢3 あらゆるマジックに応用無限大!
完璧なクラシックパスはカードの移動、変化、当てもの、予言などなどあらゆるマジックを可能にします。これほど応用範囲の広い技法は他に見当たりません。もちろん完璧にできればの話ですが。
ここからは現実の話をします。
クラシックパスの現実1 現代に適しているのか
パスはおそらく昔のポーカーテーブルなどでも行われていたと思いますが、マジックとカードゲームの場というのは少し違います。また、昔のステージマジシャン達も使っていましたが、当時はプロマジシャン達にとってクロースアップという見せ方は一般的でなく、カードマジックも小劇場のような環境で見せていました。
私はパスという技法が現代のクロースアップマジックの環境に適しているかというのは大変怪しいと思っています。
クラシックパスの現実2 できたから何だというのか
パスはいくら上手くても自慢できないテクニックです。それはちょうど麻雀のイカサマが上手いことを自慢するのと同じくらいナンセンスなのです。自慢するとしてもあくまで業界内に限られます。結局大切なのはパスを使うにしても使わないにしても、素晴らしいマジックを演じられるかどうかです。
クラシックパスの現実3 いくらでも代替可能
私はパスを否定したいわけではありませんが、少なくともパスのような危険で難易度の高い技法はパスでなければいけない場合以外、使うべきでないと考えています。実際、カードマジックの長い歴史の中で数多くの技法が開発されてきましたので、パスよりもスムーズに見えて角度に強く、安全確実で難易度の低い技法があれば、そちらを使うのが賢い選択です。
ひどい場合、たった1枚のカードをコントロールするためにクラシックパスをした後でフォールスカット、フォールスシャッフルをしてしまったりします。それなら最初からカットコントロールやシャッフルコントロールをすればよい訳です。
巷にはクラシックパスのコツ・やり方などの情報があふれかえっていますが、もしクラシックパスをマスターしたいと考えるなら、どの作品のどの場面で使いたいのかを考え、それが本当にパスが最適なのかどうかを考えることが大切だと思います。
おわりに
パスに限らず、たったひとつの技法に頼ってシンプル過ぎる現象を起こすのは危険です。もっともっと様々な原理、サトルティを散りばめるべきです。そのような素晴らしい構成をもつマジックは既に過去の名作、傑作といわれるトリックにたくさん含まれていますので、是非そういったマジックに学び、技法を適材適所に使い、技法だけに頼らないマジックを目指していただければと思います。