島田晴夫さんの思い出

先日、日本の偉大な奇術師・島田晴夫さんが亡くなりました。大変残念ではありますが、80代まで生き、晩年まで活動を続けられたことは素晴らしいと思います。私も少しだけブログに思い出を書いておこうと思います。

私は以前、島田先生のステージを日本橋三越劇場で拝見しました。そのときは鳩、カード、四つ玉、タバコ、シンブルなどのスライハンドの手順とドラゴンイリュージョンでした。当時すでに高齢ではあったと思いますが、スライハンドの安定感とイリュージョンのダイナミズムは全く衰えを感じさせませんでした。

その後、島田先生が病気で入院されたとき、一度一人でお見舞いに伺ったことがありました。病室に入ると島田先生はなんとなく寂しそうに一人ベッドの上で身体を起こしていました。腕には点滴が刺さっており、当然元気なはずはありませんでしたが、私の姿を見ると顔がパッと明るくなり、「昨日まで元気に走り回ってたのに、急に病人みたいになっちゃったよ」とジョークを飛ばしました。

ベッドに備え付けられた小さなテーブルには一組のトランプと平たい紙箱が一つ置いてありました。2人で雑談をしつつ、私は持参した本を取り出しました。その名も「BOOK OF SHIMADA HARUO」という、島田先生の対談と有名な8つ玉の手順が解説された本です。島田先生はご丁寧にその場でサインまで下さり、話は四つ玉に移りました。

「実はその本に書かれた手順は今は変わっているんだ」と言い、テーブルの上の平たい箱を開けると中身は四つ玉でした。40mm16個のボールが4×4できれいに収まるように作られた特製の紙箱でした。「今はもっとsimpleな手順にしているんだ。repeatは良くないからね」

島田先生は常に自身のマジックの推敲を重ねているようで、不自然な改めやフラリッシュは廃し、同じような動作や現象が重複しないように8つ玉の手順を再構築していました。使い込まれたボール達は汚れて傷だらけで、ところどころペンキを塗り直した後もありました。でもこれらのボールは強いスポットライトに照らされると美しく輝くのです。

いくつかの四つ玉のTIPSを述べられた後、ついに8つ玉の最新版のフルルーティーンが演じられました。ステージはベッドの上、座ったままで、観客は私一人です。もちろん病衣にホルダーなど付いていませんので、それらは腰元のベッドの上に並べられました。

腕に点滴が刺さったまま、一度もミスをすることなく8つ玉は演じ終わりました。私にとっては全く予期せぬ出来事で、まさか今日島田先生のマジックが見られるとは思っておらず、ましてやこんな素晴らしい手順を拝見することになるとは思っていませんでした。

私は思わず聞いてしまいました。「島田先生は四つ玉を失敗することはないのですか?」

すると非常に落ち着いた様子で、「失敗というのはボールを落とすということ?落とすことはまずないね。毎日触ってるから」と答えてくださりました。

島田先生はことあるごとにレジェンド、伝説と形容されます。そしてそれはステージの上だけではないのです。普通ならお見舞いに来た若いマジシャンに対して、ノーギャラでレクチャーやマジックを見せるメリットはないように思えます。しかし、間近でこんなに親切にされたマジシャンはどう思うでしょう?どう行動するでしょう?

皆に自慢したくなり、人に話したり、ブログに書いたりすることでしょう。それでまたひとつ伝説が生まれることになります。レジェンドは日々がレジェンドでした。

著書の表紙裏にいただいたサイン。「シルクハットの白いところは塗り忘れたんじゃなくて、光ってるところだから」という補足説明も頂きました。

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