地味なスライハンドで派手なプロダクションを捻り潰そう

タイトルが大げさなのはご容赦ください。もちろん素晴らしいプロダクションマジックを演じるマジシャンもいらっしゃいますが、スライハンドは地味だから派手なマジックに勝てない、と思うのは早計です。

スライハンドとプロダクションの定義

スライハンドマジックとは、主にカードやコインなどの小さなものを使ってテクニックで見せるマジックを言います。特にステージでもそのような小さな品物を使って技で勝負するジャンルを指します。

それに対して、プロダクションマジックとは、様々なものを取り出すマジックの総称で、代表的なのは空っぽの箱や筒などから花やスカーフなどを出すマジックです。

ただし、前提として、スライハンドとプロダクションには厳密な区別はありません。例えばミリオンカードやマイザーズドリームはまぎれもなくプロダクション(出現)現象ですが、通常スライハンドに分類されますし、プロダクションマジックならテクニックが要らないかといえばそんなことはなく、プロダクションにはプロダクションの技術が必要です。

ですからスライハンドとプロダクションを対立関係とするのはナンセンスです。しかし、技系のマジックを愛する人と、取り出し系のマジックを愛する人との間にはやはりタイプやキャラクターなどの違いがあるのも事実ですので、この記事では大まかに小物を使った技系のマジックと、取り出し芸とを比較します。

派手さだけがマジックの良し悪しではない

私はプロダクションも好きですが、基本的にはスライハンドを志向しています。だからこそスライハンドを志す方に伝えておきたいことがあります。それは「スライハンドが地味だ」と悩んではいけないということです。「地味がなんだ、地味で結構」という気概が必要です。

もう少し具体的に説明すると、スライハンドの「地味」という欠点ばかりに目を向けるのではなく、スライハンドの長所を伸ばすことを考えることです。

プロダクションマジックで物を取り出す際、箱や筒、袋などから取り出すのに対して、スライハンドは空っぽの手で、空(くう)から物を出したり消したりすることができます。

いくら中身を検めたとしても箱は箱、袋は袋で、そこに何か種や仕掛けがあるのではないかと疑われてしまうのは避けられません。その点、人間の手というのは基本的に改造したり、中に何か仕込んだりすることができないのは誰でも常識的、感覚的に理解しています。それがスライハンドの本質的な長所です。

怪しげな箱からどんなに大量のスカーフが出ても、どんなに大きな花が出ても「箱に秘密があるのだ」と合点されては効果がなくなってしまいます。しかし、空っぽの手からコイン1枚出てきただけでも、それは魔法となりうるのです。

スライハンドは非常に不思議で、インパクトがあり、盛り上がるマジックです。もしスライハンドを演じて手応えを感じないとすれば、それは現象が地味だからではなく、種が見えていたり、テクニックがばれていたことを疑うべきです。スライハンドでもっと盛り上げるために、派手にしようとして種が見えてしまったら元も子もありません。派手さよりも精度を取るべきなのです。

とは言え、派手なプロダクションに勝つのは容易ではありません。そもそもプロダクションは大きな道具を運んで、時間をかけて仕込みをする努力が背景にあるから強いのです。スライハンドマジシャンが頼るのは練習した時間と、自らの手だけです。

華やかなプロダクションや、迫力のイリュージョンを、スライハンドの詩で打ち負かすことができたら・・・それがスライハンドのロマンなのです。

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