シンブルの強み

「シンプル」ではなく「シンブル」です。シンブルとは洋裁に使う指ぬきのことであり、マジシャンは古くからマジックに転用しています。

シンブルは大学のマジッククラブ等では人気がありますが、マジック界全体ではカードやコイン、四つ玉等に比べて演じる人が少ないような気がします。しかし、個人的にはとても良い素材だと思いますので、シンブルの良さを挙げてみたいと思います。

1.ディスプレイの安定感

緊張で手がぶるぶる震えているような状態で四つ玉を演じるのはかなり不安です。実際落としてしまう人は多くいます。

その点、シンブルは指に刺さっていますので相当な安定感があります。もちろん演技途中で落としてしまう可能性もありますが、最後の瞬間はしっかりと決まることが多いと思います。

2.演技のスピード感

四つ玉はある程度の大きさと重さがあるため、あまりスピーディーな演技には向きません。どちらかといえばスローな演技の方が不思議で綺麗に見えると思います。

その点、シンブルは軽くて小さく、圧倒的にスピード感のある演技が可能です。逆に言えば、物理的にも心理的にも道具が軽すぎるため、重厚な演技には向きません。あまり大げさに演じると却って滑稽になってしまうので、あくまで軽いタッチで演じるのが良いと思います。

3.コンパクト

これまた四つ玉との比較になりますが、直径4~5cmのボールをいくつもポケットに入れると、かなり衣装のシルエットが崩れます。

その点、シンブルはポケットに入れてもかさばらず、衣装の不自然さもありません。

4.意外な視認性

コインや四つ玉と比較して小さくて見ずらいと思われがちなシンブルですが、実はそうでもありません。コインや四つ玉は手に持ったとき、かなり気を付けないと、持った手で道具の大半を隠してしまいかねません。その点、シンブルは指に刺さっているため、まったく道具を隠さずに示すことがでるのです。

また、コインは銀色のため、表面の状態や照明の具合によって見えにくい場合もあります。意外と単純な白や赤は見やすいのです。

5.素材の意味付け

ときどき「四つ玉はビリヤードボールを模しているから良い。シンブルは何かわからないからだめだ」という意見を持っている人がいます。しかし本当にそうでしょうか?通常マジシャンに使われているボールはビリヤードボールよりもかなり小さく、しかも赤や白の単色ばかりです。もっと大きくて数字や模様が描いてあるのならまだしも、マジックの四つ玉は到底ビリヤードボールには見えません。素材の意味付けとしてはシンブルと四つ玉はどっこいどっこいだというのが私の持論です。

同時に、素材に無理に意味づけをする必要はないと私は思っています。「シンブルも四つ玉もマジシャンの使う変わった道具なのだ」くらいの認識で良いと思います。道具の自然さを追求し始めると、シルクも変、テーブルの作りも変、ステッキのデザインも変、イリュージョンの箱も変、となんでも変に見えてきます。もし本当にそう思うのなら、日用品マジック専門になるのも一つの手です。私はマジックという特異特殊な芸能において、奇妙奇天烈な道具を使うのは全然構わないというスタンスです(やや本論から外れるので詳しくは述べませんが、奇妙奇天烈な道具を使うにしても、何でもよいわけではなく、自分なりに一定のセンスやルール、こだわりを持つのは必要だと思います。そうでなくてはあまりに取っ散らかった印象になってしまうからです)。

素材の意味付けという点では、トランプやコイン、ロープには到底かないません。これらの道具は誰が見てもトランプ、コイン、ロープです。その点はシンブルや四つ玉の及ばないところです。

さいごに

私はシンブルはとても優れたマジック道具だと思っていますが、途中で述べたようにあくまで軽いタッチの演目です。手順としては2分くらいがちょうどよく、それ以上欲張るとあまり良い結果にはなりません。

客席をよく見て、耳を澄ませば、観客が垂れてきたことには必ず気付けるはずです。垂れる前にクライマックスを持ってきて次に移るのが賢明です。

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