わかりやすいマジック?

今回は、マジシャンが常に求められる「わかりやすいマジック」とは何なのか、考えてみたいと思います。

これはマジシャンあるあるだと思うのですが、「今日は子供が多いので、わかりやすいマジックにしてください。」と言われたかと思ったら、「今日のお客さんはお年寄りが多いのでわかりやすいマジックにしてください。」と言われ、今日は大人のショーだと思ったら、「皆さん、お酒が入っているので、できるだけわかりやすいマジックにしてください。」と言われたりします。ボランティアなどで演じる場合も同様だと思いますが、とにかく常にわかりやすいマジックが求められ、当たり前ですがわかりにくいマジックが求められることはありません。

ただし、最初に言っておきますと、このような要望を出される時点で、私は自分が三流であることを痛感します。なぜなら、マジシャン自身に絶対的な信用があったら、内容については特に要望は出さずにお任せということになるはずですし、一流のマジシャンならより良い環境でショーができるので、特別わかりやすさを意識する必要もありません。このように書くと、お客さんを選んでいるようで聞こえが悪いですが、実際、きちんとした劇場と、ストリートや酒席を比べてしまうと、演技可能なマジックの種類はどうしても異なってきてしまうのも事実です。

また、実はマジックというジャンルがもつ特有の性質にも原因があります。例えば、お笑い、落語、漫談などの話芸はどうしても幅広い年齢層に対応するのが難しくなります。子供の笑いと大人の笑い、お年寄りの笑いがかなり異なっているからです。その点、マジックは最初から「老若男女幅広く対応できる演芸」としての期待や需要があり、そこから「わかりやすさ」が求められるようになるのではないかとも思います。(ただし、実際にはそうとは限りません。マジシャンの中にも、子供向けのショーがすごく得意なマジシャンがいれば、バーで物凄く受けるマジシャンもいるからです。むしろ特定の環境に特化するのは素晴らしいことだと思います。)

ともかく、マジックはわかりやすさを求められることが多いのは間違いありません。

一現象入魂

できるだけわかりやすいマジックを選ぶ、とかあまりに月並みなことを書いても仕方ありませんが、もちろん演目のチョイスも重要です。その上でやはり重要なのは、演じ方だと思います。それは同じマジックでも演じる人によって、わかりやすくなったり、わかりにくくなったりするからです。

当然ですが、手順がうろ覚えだったり、技法がぎこちなかったりすると途端に何をやっているのかわかりにくいマジックになりがちです。手順も技法も余裕を持っておくことが本当に大事だと思います。

また、手順作りのときから練習、本番を通じた心構えとして、「一現象入魂(いちげんしょうにゅうこん)」という言葉を自分に言い聞かせます。これは私の数多くの失敗体験から生まれた私の造語です。よく、スポーツなどで「一球入魂」と言ったりしますが、マジックの場合は「一現象入魂」となるのではないかと思います。

すなわち、ひとつの現象を大切にする。ひとつの現象を魂を込めて演じる、という意味です。手順を作るときもひとつひとつの現象が際立つように、決して現象が流れてしまわぬように、それを練習でも意識します。これに気付く前、いや気付いた後もついこの言葉を忘れると失敗します。もちろん失敗と言っても、マジックそのものを失敗するのではなく、お客さんの反応が弱まったり、ショーの質が下がったりという意味での失敗です。だから忘れないようブログに書いておきました(笑)。

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