コインマジックの第一人者だった故デビッド・ロス氏は数多くの有名作品を遺しています。「ウイングド・シルバー」「チンカチンク」「ワイルド・コイン」「ポータブル・ホール」など…。でもそんな中で私が最も実戦的で素晴らしいと思っているのが「ハンギング・コイン」です。
ハング(hang)とは吊り下げるという意味で、日本語でも洋服を吊り下げるためのハンガーでおなじみの英単語です。ハンギング・コインはコインを1枚ずつ空中に吊り下げていくマジックです。
私は「世界のコインマジック」という本で覚えましたが、より出版年が新しいのは「図解コインマジック大辞典」です。こちらはボリュームもありますが値段も高いのが欠点です。
ハンギングコインの特徴
①テーブルを使わない
テーブルを使わない、すなわちマットもいりません。テーブルの上にコインを広げると意外にガチャガチャうるさいものですし、テーブルが傷つくのも気になります。とはいえ、マットを敷くのは手軽さに欠けます。やはりクロースアップショーなどでなければ、マットを使わなくてよいなら、それに越したことはありません。
デビッド・ロスの作品としては珍しくテーブルを使わずにできる作品です。
②ギミックもエキストラも使わない
人によってはギミックやエキストラを使えばその分簡単になるのでは?と考える人もいるでしょう。たしかにそういう場合もありますが、多くの場合は、ギミックやエキストラをどうやって付加し、どうやって処理するのかという問題、ギミック感やエキストラ感をどうやって払拭するのかという問題があり、これはこれで難しいものです。
ギミックやエキストラを使わないことでオープニング・クリーン、エンド・クリーンになりますし、ひとつの立派なセールスポイントだと思います。
③音の問題を解決
コインを複数枚扱う場合、カチャカチャ、チャリチャリという音がネックとなる場合があります。よくある解決方法として、コインを加工したり、ソフトコインを使ったりというものがありますが、ハンギングコインの場合、そのような物理的な解決ではなく、ハンドリングによって上手く解決しています。これがハンギング・コインの最大の工夫です。
④使うコインはハーフダラーまたは500円、3~4枚
コインを複数種類使うと現象はバラエティに富む分、見ている側としては少しややこしくなる可能性があります。その点、ハンギングコインは同一コイン3~4枚ですから大変シンプルです。コインの種類はハーフダラーや500円が適していると思いますが、10円や100円でもできないことはありません。特殊なコインがいらないのもメリットです。
⑤意外に角度に強い
いやいや、ハンギング系は角度に弱いんじゃないの?という方もいるかもしれませんが、どうしてどうして、かなり強いです。もちろん下手に演じれば種は見えてしまいますから、十分に練習・研究は必要です。
まとめ
ハンギングコインの良い部分ばかり書いてしまいましたが、常識的には難易度は高めで、初心者向きのマジックではありません。コインマジックを始めて、各種パームやバニッシュをマスターし、アクロスやアセンブリー、スルーザテーブル系も一通り試してみた人が変化球として取り組むには良いと思います。興味が湧いた方はぜひ練習してみてください。