ちょこっとやるのが一番難しい

マジックはちょこっとやるのが一番難しく、本格的にやる方がはるかに簡単だと感じます。その理由を綴ってみます。

「マジックをちょこっとやる」というのは即席で、大した準備も道具もなく、ごく短時間でひとつだけ演じるような場合です。これはマジシャンにかなりの技量が求められます。

まず、瞬時に状況を判断する必要があります。マジックを見るのは何人なのか、どこにいるか、近いのか遠いのか、座っているのか立っているのか、テーブルや椅子の配置はどうか、人々の性格、年齢、その場の雰囲気などを加味します。

次に知識、引き出しが多くなくてはいけません。いくら正確に状況を判断したとしても、できるマジックが限られていてはその場に適したマジックを引き出せません。

そのためには普段から自分の興味以外のマジックも幅広く研究しておく必要があります。ショーで演じるには向いていなくても、即席で演じると輝くマジックもたくさんあるからです。

日々の鍛錬も必須です。〇月〇日に✕✕でマジックショーをやる、というのなら、その日に向けていくらでも練習ができますが、即席の場合は日々の鍛錬のみが物を言います。錆びつかぬよう常に技を磨いておかなくてはいけません。

また、複数のマジックを演じるなら、最初のうちこそ緊張で手が震えても、徐々に調子を上げていけます。しかし、たったひとつのマジックによって評価が決まるのであれば、一撃必殺の現象を演じなくてはいけません。

一方、15分のマジックショーを演じるとなると、だいぶ構成が変わってきます。15分のなかで、30秒で終わる一撃必殺のマジックを30個演じてしまうと、観客にとってかなり疲れるショーになります。ショーならばある程度緩急が必要で、様々な要素が入ってきます。

新しくマジックを始めた人で、「ちょっとしたときに、ちょっとしたマジックがやりたい」という気持ちは非常によくわかります。そのためには数多くのマジックを覚え、練習し、その中から、その場の状況に合わせて選び抜いたマジックを演じる必要があります。

どちらかといえば、本格的にマジックに取り組んだ結果として、「ちょっとしたマジック」も演じられるようになるのです。

逆に言えば、「ちょっとしたリクエスト」に応じて即席でマジックを演じて楽しませられる人は、実はかなりの実力者だと私は思います。

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