コインズアクロスに使うコインの枚数を考察

最近はコインマジックも様々な進化、発展を遂げていますが、やはり今でも「移動」現象はコインマジックの代表格だと思います。さて、その移動現象を見せるとき、コインを何枚使うべきか、という考察です。

1枚が最善か

手から手にコインの移動を見せるマジックを総称してコインズアクロスと呼んだりしますが、テンカイペニーやウイングド・シルバー、スリーフライ等、様々な作品があり、使う枚数も最小1枚、多いと8枚とか、それ以上使う場合もあります。

「コインズ」と複数形になっているのだから普通は2枚以上使うはずですが、冷静に考えるとコインは1枚移動すれば十分なはずです。2枚移動すれば2倍不思議かといえばそんなことはありません。1枚のコインをたしかに左手に握り、それが右手に移動したなら、これほど身近な奇跡はないと思います。

実際、多くのマジシャンはなぜコインズアクロスで複数枚のコインを使うのか論理的に説明できませんし、仮にできたとしても、それをお客様に説明したところでそこまで面白い話ではなさそうです。逆に何の合理性もないまま、4枚のコインを出して、それらが移動したとしても、お客様はそこまで枚数にこだわらずに、不思議さを感じてくれるものです。

つまり、論理的には1枚で良いのですが、実際には複数枚でも違和感なく演じることができます。しかし、かといって何枚でも良いわけではないと私は思っています。

ウイングド・シルバーの例

ここではスタンダードなコインズアクロスの例として、デビッド・ロス氏のウイングド・シルバーの場合を考えてみましょう。この作品は通常用いるコインは4枚ですが、理論上はコインが何枚であっても成立する作品です。

もしウイングド・シルバーのやり方を知らない方はぜひ次の本で勉強しましょう。

仮にウイングド・シルバーを3枚で行う場合と4枚で行う場合で比べてみましょう。

・3枚の場合

①右手3枚、左手0枚→②右手2枚、左手1枚→③右手1枚、左手2枚→④右手0枚、左手3枚

3枚の場合は以上のような変化になります。ここで注目したいのは②→③の変化で、この部分はお客様が注意して見てていないと現象が弱くなります。というのも、多くの人にとって左右の概念は非常にあやふやで、見る人がどちらを向いているかによっても左右の概念は変わってしまうからです。

だから、「右手に2枚、左手に1枚」という状態が「右手に1枚、左手に2枚」という状態に変化したとしても、ちょっとよそ見をしていると、どっちがどっちだったかわからなくなります。(同じことはステージマジックのシンパセティック・シルク等にも言えますが今回は割愛します。)

それでは4枚の場合はどうでしょうか?枚数が増えた分、もっとややこしくなるでしょうか?それがそうでもないのです。

・4枚の場合

①右手4枚、左手0枚→②右手3枚、左手1枚→③右手2枚、左手2枚→④右手1枚、左手3枚→⑤右手0枚、左手4枚

まず①→②の変化は非常に不思議です。なぜなら片方の手にすべてのコインを握っていたにもかかわらず、反対の手から1枚出てくるのですから。そして②→③の変化もわかりやすいです。左右異なる枚数持っていたにもかかわらず、左右同数になってしまうからです。同様に③→④の変化も、左右同数のコインが左右異数になるので明快です。そして最後、④→⑤の変化も片方の手からすべてのコインが出てくるので不思議です。

よって、ウイングド・シルバーは、4枚のコインで行うと、左右の概念に関係なく、すべての段階で現象がわかりやすくなるのです。

偶数の美しさ

実はテンカイペニーやハンピンチェンなどの古典的なコインズアクロスも、左右同数のコインを両手に握り、それが一度に全て片方の手から出てくるという見せ方になっています。これは非常に巧みな考え方で、お客様が左右に混乱することなく、移動を理解させることが可能になっています。

それはコインが偶数だからできることで、私は個人的に偶数枚(2枚とか4枚とか)のコインズアクロスが美しいと思っています。

また、1枚でコインの移動を見せるのも悪くはないのですが、単純すぎて見破られる可能性があること、1も奇数なので左右の混乱を解決できていないこと(結局「どっちの手に持ってるか」という感じになってしまう)、コイン同士を手の中でぶつけて音を鳴らすことで劇的な効果を生むことができないことなどがウィークポイントになるかと思います。

まとめ

以上、コインズアクロスに使うコインの枚数は2枚や4枚などの偶数が良い、というのが私の考えです。マジシャンはついつい、自分のやっているマジックはわかりやすい、と思ってしまいがちです。それはたくさん練習しているので当たり前なのですが、普通の人はよほど明快にしておかないと理解してくれないものです。偶数は、人に理解されやすい数ということなのかもしれません。

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