去る9月26日、堀木智也さんのマジックショー“Editions No.7”を観てきましたので概要や感想を書きます。
堀木さんはマジックショップMAJIONさんのメールマガジンをときどき執筆されており、私はそれを読んで堀木さんの圧倒的な知識と研究量に驚き、興味をもちました。
以前から実演を観てみたかったのですが、今回ようやく観にいくことができました。
今回のショーは観客が4名限定という変わった形式で、その分、非常に間近から参加しつつ楽しむことができます。
私は観る前からすでに堀木さんを今までのマジシャンの尺度や枠組みでは評価できないというくらい期待していました。
そして観賞後、その期待はまったく裏切られることはありませんでした。
総評
全体の印象として、私が今まで観た中で(映像も含めて)、最も知性を感じるマジシャンといっても良いでしょう。
もっとも、クロースアップマジシャンは昔から知的な人が多い傾向はあります(一方ステージマジシャンは明るい芸人タイプが多いです)。それでも堀木さんは群を抜いて知的なのです。実際、語学にも堪能で、長く複雑な台詞を覚え、よどみなくこなす点で本当に頭が良いのだと思います。
また、台詞や演じ方が重厚なのも非常に好感が持てます。芸風が軽快か、重厚か、というのはもちろん好みの問題ではありますが、私は昨今、重厚な芸風が好みで、私自身も重厚を目指していますし、マジックは重厚に演じた方がより効果的であるとすら考えています。
(誤解のないように書いておくと、必ずしも「軽快なトーク」などは悪いと思っていません。どちらかというと「軽薄な演じ方」が嫌いなのです。いかにもマジックを軽んじ、マジックへの愛情が感じられない演じ方が嫌なのです)
内容としては、カードマジックが多く、観客が覚えるべきことが多かったり、現象が複雑だったりという点はありますが、私はこの辺を気にしていません。実際、昨今のエンターテイメントは映画や小説、謎解きゲームなど、難解で複雑なものもたくさんあります。むしろマジシャンだけがいつまでも「ただただわかりやすくて派手なもの」を求められる風潮は気に入りません。もちろん、わかりやすいものや派手なものにも価値はありますが、芸術はそれだけでなはいのです。
堀木さんはショーの冒頭で不思議さを重要視している旨を話されていました。ショーを観終わってみると、堀木さんは理屈としての不思議さだけではなく、感覚・感性に訴える部分の不思議さも含めて考えているようで、その点も素晴らしいです。
各評
この先、ショーの具体的内容に触れますが、これから堀木さんのショーを観る方や、堀木さんご本人に迷惑が掛からないよう、あまり詳細には書きませんのでご了承ください。
カードパート
明らかに堀木さんが最も情熱を注いでいる分野だと思います。カードの手順が最も時間的に長く、いくつかのパートに分けて演じられます。台詞や演出はもちろん、ハンドリングや構成の随所に工夫が見られました。
私の頭をふとよぎったのは「メンタリズムとテクニックは相性が悪い」という昔からの通説です。この説は今でも有効ではあると思いますが、堀木さんはフラリッシュ的なテクニックも使えば、メンタルエフェクトもやります。
これは私の推測ですが、堀木さんはギャンブルのデモンストレーションのような感じで解釈しているのではないでしょうか?つまり、一流のギャンブラーは手先の器用さを使ったイカサマをしますが、同時に相手の心の機微を読むのにも長けているはずです。そのようなギャンブラーの再現であるならば、テクニックとメンタリズムは両立するのでは?という意味です。
コイン
少しあっさりした印象でした。ちょうど、いわゆる第1段までを見た感じです。器もあるのですから、例えば器をふせて使うなどした第2段、意外性のある第3段くらいまでがあっても良いと思いました。そうすることで作品の見応えが増すと同時に、カードパートの質とボリュームとのバランスもとれると思います。2、3フラッシュがあったので要注意。
花
これは素晴らしい設定と演出です。小道具もお洒落で良いです。ただ、これだけ素晴らしい設定と小道具を用意したにもかかわらず、選択が2択1回のみというのは少し寂しい気もします。私ならもう少し要素を足したくなります(例えば人物の性別、花の本数など)。設定と小道具を生かした上で、もう少しボリュームアップできたら、先述のようにカードパートとのバランスも取れると思います。
ナイフ
なぜその現象が起きるのか、という設定は素晴らしいですが、残念ながらあまり不思議には見えませんでした。それどころか、行儀のよい観客でなかったら致命的な指摘をされる可能性もあって危険です。時間的にも短いですし、他の手順との関わりも薄いので、私ならこの演目はカットしてしまうかもしれません。
ブック
こちらも非常に凝った台詞でした。しかし、やはりちょっとあっさりしています。コインと同様、第1段までを見たような印象です。少しやり方を変えた第2段、意外性のある第3段などがあっても良いかもしれません。
ポラロイドカメラ
このテーマにポラロイドカメラを使うというアイディアはとても面白いです。しかしポラロイドカメラの性質上アクシデントが起きやすい気がします。
実を言うと今回もアクシデントが起きていました。皆がポラロイドカメラで写真を撮った後、写真をすぐに封筒にしまいましたが、そのとき観客の1人が「写真を裏向きに入れるのか、表向きに入れるのか」という発言をしました。そこで思わず私も自分の封筒の中の写真の向きを確認し、そのときに正常に現像されていることも確認しました。そのため、最後の現象との矛盾が生じてしまったのです。
また、そうでなくともある程度現像を待って封筒にしまう人がいてもおかしくありません。この不確実性が少し怖い気もします。
さらに、これは杞憂かもしれませんが、今どき、スマホで写真を撮るのに慣れている人にとっては、取った時間と場所、内容を世界中のどこにいても確認できるのが当たり前です。堀木さんが使っているのはおそらく本物のポラロイドカメラですが、もしスマホのような機能があったら不思議が成立しないのでは?という心配もあります。
もっと単純に、「部屋に隠しカメラがあったら?」と思う方もいるかもしれません(おそらく実際にはないでしょう)。
しかし、意外とこのような状況で不思議を成立させるのは簡単ではないのです。
おわりに
マジシャンの性として厳しい目で見てしまいましたが、強調しておきたいのは全体としては十分なクオリティであり、私も十二分に楽しみましたし、細かな点が気になったのは非常に集中して観ていたことの裏返しでもあります。
しいていえばカードのレベルが高すぎてその他の手順が追い付いていないというだけかもしれません。
堀木さんは私がとても期待しているマジシャンで、これからますますの進歩を遂げると思いますので、応援しています。
