今月22日、日本奇術協会主催のマジックショーMOMを見に行ってきました。今回は客席約50のクロースアップショーとなっており、Dr.レオンさんをはじめ、豪華な出演者です。
まず、ショーのタイトルはこれで良いのでしょうか?出演者が男性ばかりですし、硬派な感じは伝わりますが、いかんせん「俺のイタリアン」や「俺のフレンチ」を運営する「俺の株式会社」さんの丸パクリになってしまっています。現状だとパロディとしても成立していないので少し苦しいかなと思います。
タイトルは仕方ないとして、出演順に大まかな内容と感想を書いていきたいと思います。
①野島伸幸さん
今年イタリアで開催されるFISMのコンテストに向けた手順。詳しくは後述します。
②てってんさん
青い髪の若手マジシャン。バルーン飲みやルーブックキューブ、ブックテストなど。既に活躍されているマジシャンですが、いくつかアドバイスを受ければもっと良くなる演技だと思いました。
私が思うアドバイスの内容について、もし、てってんさんご本人がこのブログを読んで興味をもってくだされば、メッセージをいただければこっそりお答えします。
③茘枝(らいち)さん
ダイスとカード。非常によく研究されているように感じました。見た目も特徴的で良いと思います。プロフィールに「ほろ酔いマジシャン」とあり、本番前に会場を歩き回っていたあたり、上がり症なのかなと思いました。
④藤本明義さん
定番とされるマジックを非常に上手くアレンジされていました。テクニック、面白さ、安定感があり、さすがのベテランマジシャンです。破れたカードのマジックはとてもウケていましたが、全体としてトランプを何組使っていたのかが曖昧になってしまうデメリットもあります。単品で演じるのは良くても、他とつなげにくいマジックかもしれません。
⑤Dr.レオンさん
カードスルービニール袋、3色チップのスリーフライ、観客と一緒に行うシルクトゥーエッグ、カードマジック(Any card at any number)、数字キューブなど。特に卵はとてつもないアイディアとその実現力に驚きました。
さて、最初の出演者の野島さんは昨年の私のソロライブにも来てくださり、親交のあるマジシャンです。今夏のFISMではぜひ上位入賞を果たしてほしいと願っています。
本戦まではまだ数か月ありますし、ご本人もこれからさらに磨きをかけることと思います。私自身は今回の手順を始めて拝見し、まだ必要なエッセンスがあると思いました。
野島さんの今回の手順は彼の代表作ともいえるリンキングダイスを中心に展開させたものです。オープニングに短いコインの手順を演じた後は、ダイス(サイコロ)一筋です。特に中盤のリンキングダイスはテクニック、オリジナリティともに素晴らしく、これがFISMレベルだと思わされました。
すでに国内のコンテストであれば十分なクオリティだったと思いますが、何しろFISMといえば、入賞すれば数々の偉大なマジシャンたちと肩を並べ、永遠にマジックの歴史に名前を刻むといっても過言ではありません。
野島さん自身が、FISMにコンテスタントとして出場するのは今回が最後かもしれないとおっしゃっていたので、ぜひ集大成として臨んでほしいと思います。
その上で、FISMという舞台を考えると、現状の手順は部分的に素晴らしいところはあるものの、全体としては少し弱さを感じます。先述したように、いくつかのエッセンス(大切な要素)が必要だと思ったからです。以下に4点まとめました。
その1 オープニングのコインの必要性
昨今のコンテストではテーマやイメージを明確にするために、一種類のマジックだけを行うパターンがあります。例えばカードだけとか、コインだけといった感じです。
今回、オープニングのコインの手順は、メインテーマであるリンキングダイスと関係ないように見えました。コインを演じる必然性を付加するか、いっそのことコインパートはカットする選択もあるかと思いました。
そもそも、現状だとダイスの導入部分で技術的に手間取るようです。最初からダイスにしてしまえば暗転中に準備できるので、その点も改善されるかもしれません。
(追記 このブログ公開後に野島さんと連絡を取ったところ、オープニングのコインの手順はMOM用に演技時間を延ばすために追加したもので、コンテストでは演じないそうです。これで納得がいきました。)
その2 なぜダイスなのか
リンキングダイスの原形はマッチやタバコ、輪ゴムの貫通です。これらのクラシックは、即席マジックとして、その辺にある日用品を使ってマジックをするというスタンスです。
リンキングダイスも短時間演じる分にはそこまでサイコロである必然性を追求する必要はありませんが、コンテストでここまで(序盤を除いて)徹底的に「サイコロづくし」という構成だと、サイコロが大好きで、サイコロに人生をかけた人に見えます。
だからこそ、この人はなぜサイコロが好きなのか、サイコロのどんな部分が好きなのか、なぜサイコロに人生をかけるに至ったのか、という点を深堀りしてもよいのではないかと思います。あるいは「I♡🎲」と書かれたTシャツを着ていれば理屈抜きにサイコロが好きなんだと伝わるかもしれません。
サイコロはとても面白い題材です。「偶然」や「運命」を象徴するようであり、「ギャンブル」や「ゲーム」の道具でありながら、「確率論」や「統計学」も連想させます。
小さなサイコロから大きなスケールを生み出すことが可能なのではないかと思うのです。
その3 なぜ貫通するのか
言うまでもなく、ダイスは振って数字を出すのに使うものです。本来はあのように持って貫通させるための物ではありません。
では、なぜあのように持つのか、持とうと思ったのか、そしてなぜ貫通させようと思ったのか、という点を演技に反映させても良いのかもしれません(例えば3つ同時に振ろうとしたとか、両手で同時に振ろうとしたとか?)。
貫通するのは何故でしょうか?マジシャンがとても器用で、スーパーテクニックを使っているから?魔法のサイコロだから?またはマジシャンすらわからない謎の力に翻弄されているのか?
すでに片鱗はありましたので、あと一歩整理して明確にするだけなのかもしれません。
その4 不安定の対策
リンキングダイスはその性質上、連ねて持ったダイスが、力加減によって空中分解(バースト)してしまう危険が常にあります。今回も何度か失敗がありました。
FISM本戦はもちろん、もし入賞やグランプリを取ったらその演技を世界中で演じることを求められます。その度にバーストの憂き目にあうのかと思うと辛いマジックです。
ただ単にたくさん練習する、ということではなく、バーストしにくい工夫、失敗しても大丈夫な工夫がほしいと思います。あくまで私の思い付きの例ですが、「Success rate of next magic is 1%!(次のマジックは成功率1%!)」と書かれたパネルカードを見せて、緊張感や失敗をも観客と共有する戦法もあるでしょうか?
(追記 この点については練習不足だったとのことです。練習で成功率が上がるのであればそれが最も良いでしょう。)
私が思うエッセンスは以上となりますが、的確な意見かどうかはわかりません。もしかしたら全く的外れかもしれません。しかし、的外れの意見も意外な方向、意外な角度からヒントになったりするものです。
だいぶ野島さんに肩入れしてしまいましたが、以上MOM Vol.134「俺のクロースアップ」の感想でした。