マジックの芸術性

皆さん最近はいかがお過ごしでしょうか?まだまだコロナが猛威を振るっていて、正直言って趣味でマジックをやっている方の中にはマジックを披露できる場所やタイミングが減って、モチベーションが落ちている方もいると思います。

あらゆる非常事態において、マジックを含む芸能や芸術は優先順位が低くなります。それでも芸能芸術は存在意義があると思っています。しかもそれが一時の気晴らしや気分転換というだけでなく、例えばマジックを学んで、練習したり、工夫を凝らしたりすること自体が高度に文化的なことで、マジックをやらなかったら考えもしなかったようなことを考えるきっかけにもなります。

私は高校生の頃、美術部だったこともあり、芸術とは何だろうか、ということを10代の頃からよく考えていました。それをマジックにも置き換えて長年考えてきたことの一端を少しだけ紹介します。前置きが長くなりましたが、マジックを演じるときのセリフや演出面にも役立つ内容にしたいと思っていますので、読んでいただけたら幸いです。

マジックは芸術か否か

マジックは紛れもなく芸術です。ただし、「私のマジックは芸術と呼ぶには及びません」とか、「お前のマジックは芸術じゃない」とか、そういう意見はあると思います。ただし「マジックというジャンル自体が芸術たりえない」というのはあまりに芸術を狭義に捉えてしまっているのではないかと思います。

芸術は世間からほど遠い、ごく一部の人たちだけが理解しているもの、というのは誤解で、芸術はもっと身近で広くとらえてよいものだと私は思います。

例えば、マジックの本を読んで、その通りに練習して演じるだけでも芸術でしょうか?私は十分立派に芸術的な活動だと思います。例えば、クラシックのピアニストは疑いようもなく芸術家ですが、極論すれば既存の楽譜のとおりに練習して演奏しているだけです。しかし演奏者によって、その曲のとらえ方や楽譜の解釈が違い、同じ曲であっても、人が変わればかなり違ったものになります。

マジックの場合も、同じ本を読んで同じマジックを覚えたとしても、演じる人によって全然違う印象になりますし、また、お客さんや演じる環境によってもマジックの印象が変化します。この一つの例だけを見ても、私はマジックが本当に高度な文化で、芸術であると思います。

それでは、マジックが芸術であるならば、どうしたらより芸術性を高められるでしょうか?

マジックの芸術性を高めるには?

まず大前提として、簡単に芸術性を高めることはできませんし、芸術性を高めたからといってウケるようになるとも限りません。また、私自身が芸術としてのマジックを体現できていないというのもあります。

それでも、私なりに掴んだ芸術のヒントは「今」「ここ」「私」を離れることです。わかりやすく具体的な例を挙げてみます。次のセリフは芸術的でしょうか?

「皆さん、こんにちは。私の名前はダーク和秋です。今日はマジックショーを見に来てくださいましてありがとうございます。」

これは芸術的ではないと思います。なぜなら、私が私の立場で、この場所にいて、この瞬間のことをしゃべっているからです。これだと、お客さんにとって理解はしやすいのですが、何も想像する余地がありません。芸術の定義はちょっと難しいのですが、芸術は表現者の心の中と、それを受け取る側の心の中にあるものです。だから、目の前の事実を述べるだけでは芸術にはなりにくいです。

それでは、次のセリフはどうでしょうか?

「昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。」

これは短いですが、少しだけ芸術的な文章です。なぜなら、時間は「今」ではなく「昔々」、「ここ」ではなく(ちょっと曖昧ですが)「あるところ」、「私」ではなく「おじいさん」と「おばあさん」が登場します。そうすると、今この場所が別の空間に変わります。話し手は別世界を表現したことになり、聞き手には想像の余地が生まれます。芸術の第一歩です。

これはマジックのセリフや演出を考えるときのヒントになります。あるマジックのセリフや演出が、なんとなくつまらないな、平凡だな、と感じたら「時間」「場所」「人」のいずれか、または複数をずらせばよいのです。

例えば「時間」をずらそうと思ったら、今ではなく、過去の話(昨日、去年、10年前、100年前など、何でもよい)や未来の話(1分後、明日、22世紀など)をしたらどうかと考えます。

「場所」をずらす場合はアメリカでもフランスでも中国でも、国内の他県でもよいので、どこかここではない場所の話をします。

「人」ならば実在でも架空でもよいので自分以外の誰かを登場させます。

そのようにセリフを考えていくと、いつの間にかセリフが単なる状況説明だけではなく、自分の気持ちや考え方、価値観などが反映されていきます。そして、見る側には、演者の心が織り込まれたマジックが届くのではないでしょうか?

このように、私は、決して芸術を大げさにとらえる必要はないと考えています。だから本当に大げさではなく、マジックは芸術なのです。

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